日経SDGsフォーラム シンポジウム

コロナ後の経済蘇生へ 持続可能な新常態を(上)

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 主要国が相次ぎ経済活動の規制緩和に動いているとはいえ、新型コロナウイルスとの戦いはなお途上にある。一方、国連が2030年達成を掲げる持続可能な開発目標(SDGs)は世界に待ったなしの対応を迫る。経済蘇生とSDGsをどう両立するか――。日本経済新聞社と日経BPは5月14日、都内で「日経SDGsフォーラム」の無観客シンポジウムを開催。識者らは一変した仕事・暮らしと向き合い、持続可能なコロナ後の新常態を構築すべきだと訴えた。

■挨拶
外相 茂木 敏充 氏

自己責任 高い意識で

 新型コロナの世界的拡大により、厳しい状況が続いているが、危機に直面した時こそ、イノベーションが生まれる。新型コロナは、テレワーク、遠隔教育などのリモート・デジタル化推進や、サプライチェーンの多重化・多元化など、経済社会の在り方を抜本的に見直す機会にもなる。

 また、新しいライフスタイルを実現し、一歩進んだ新しい社会にシフトしていく中で、より自由な行動や生活には、より高い自己責任意識を一人ひとりが持つというニューノーマルの確立も含め、SDGsの達成に向けた行動が加速することを期待している。

■挨拶
国連広報センター 所長 根本 かおる 氏

アプローチ 統合的に

 SDGsはコロナ後の社会を築くうえでの私たちの羅針盤。パンデミック(世界的大流行)収束後のニューノーマルを確立するうえで、広い分野にまたがるSDGsの統合的アプローチと「誰一人取り残さない」大原則が不可欠だ。真に包摂的で公平で気候変動に配慮し、持続可能な社会経済モデルに転換しつつ復興を推進すべきだ。今回の危機対応は感染症拡大の鎮静化だけでなくSDGs達成のプロセスだと強調したい。

 

■基調講演
TCFDコンソーシアム会長/一橋大学CFO教育研究センター長 伊藤 邦雄 氏

気候変動 共創対話で解決

 コロナショックは経済社会システムを抜本的に変える可能性がある。資本主義自体を問い直す時だろう。持続可能性が経営の根幹となりESG(環境、社会、企業統治)を経営に組み込む必要がある。社員や家族の幸福も経営の重要な要素だ。

 コロナ禍の下でも気候変動問題をなおざりにしてはならない。ウイルスはいつか収束するが、気候変動問題の収束は絶望的にない。後戻りできないのだ。

 出張などこれまでの常識も見直すときだ。資金と温暖化ガスの同等性に着目した場合、従来の予算管理に加えて、カーボンバジェットを作成してそれを順守する必要がある。企業は気候変動に関する情報を開示し、社会的費用を生み出す外部性を抑制していかなくてはならない。

 TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)は気候関連情報のグローバルな開示の枠組を示す提言だ。この中で企業が開示すべき情報としてガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標が挙げられている。気候変動によって起こる将来予測を用いて自社の気候関連のリスクと機会を評価し、経営戦略とリスク管理に反映させ、財務情報などで影響を開示することだ。SDGsの17目標、169のターゲットを成長戦略に組み込み、イノベーションを創発する必要もある。

 気候変動リスクは投資リスクでもある。共創対話型の責任ある透明な資本主義が求められる。企業と投資家はさらなる建設的な対話を通して、共に社会課題の解決に取り組むべきだろう。SDGsネーティブと呼ばれる若い世代を重要なステークホルダーと認識することも重要だ。

■基調講演
産業技術総合研究所 ゼロエミッション国際共同研究センター 所長/旭化成 名誉フェロー 吉野 彰 氏

産業界動かす経済性カギ

 IT(情報技術)革命と共に生まれ、成長してきたリチウムイオン電池関連の特許出願数は今また大きな波を迎えている。地球環境問題解決への大変革が始まっている。

 SDGs達成に必要な手段は技術革新、個人と社会の価値観の変革、政策的変革だ。ワットの蒸気機関に始まった第1次産業革命と20世紀の大量生産・大量消費の第2次産業革命が環境破壊を引き起こしてしまった。情報技術の変革が起きた第3次産業革命後、人工知能(AI)やあらゆるものがネットにつながる「IoT」、次世代通信規格5Gといった技術にシェアリングなど新概念を取り込み、モノと情報をつなげて変革を起こそうという第4次産業革命が起こっている。

 第4次産業革命は、地球環境問題という過去の負の遺産の清算に大きな力を発揮するだろう。SDGsとESGに加え、第4次産業革命の本質をよく見ておくべきだ。技術革新とともにシェアリングが重要な概念となる。

 例えば未来の車社会を表すCASEという言葉がある。Cはコネクテッド、Aはオートノマス(無人自動運転)、Sはシェアリング、Eはエレクトリックだ。未来の車社会は、地球環境問題に大きく貢献して利便性が上がり、個人の費用負担は劇的に下がる。おそらく2025年あたりからこうした車が街角で見かけられるようになり、30年には本来の姿につながっていくのではないか。

 だが、環境問題の解決だけでは登場した技術や製品が一般に普及しない。経済性が見えると産業界が動き出し、世界が大きく変わっていく。それが絶好の商機となる。

■パネルディスカッション
パネリスト
経済学者(※海外中継) ジェフリー・サックス 氏
東洋大学 教授/慶應義塾大学 名誉教授 竹中 平蔵 氏
慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 教授 蟹江 憲史 氏

健康・経済の国際協調急げ

供給網 アジアの域内協力を サックス氏

ルール形成、日本に可能性 竹中氏

コロナ対策の現状はプラス 蟹江氏

 蟹江氏 コロナウイルス対策で経済・社会の先行きやSDGs対応への不安も聞くが、現状はSDGs推進へプラスに働くと考えている。

 竹中氏 国際協調は重要だ。ワクチンや治療薬を開発した企業がパテントを取った場合、その薬品を世界に行き渡らせるために資金力がある世界保健機関(WHO)やG7などがパテントを買い上げ、技術を無料で開放する、そんな新しい国際協調も考えるべきだ。経済悪化で懸念されるのは金融機関のバランスシートが悪化し、リーマン危機のような金融危機が再発することだ。前例にとらわれない思い切った政策が必要だ。一方、経済活動の低下で世界中に青空が広がったことから環境問題の重要性が再認識され、環境問題への取り組みが一気に進む可能性がある。

 サックス氏 これは第2次世界大戦以来の世界的危機であり、世界恐慌以来の経済危機だ。東アジアと太平洋諸国では欧米より感染拡大が制御されているが、経済的打撃は世界に波及する。為替危機で債務を返済できず多くの途上国の格付けが下がる。国際収支の危機で送金、観光、輸出の歳入がマイナスになる。深刻な数年間になる。公衆衛生が最重要で、感染を制御できなければ経済は機能しない。

 国際協調は不可欠だ。パンデミックは自国と周辺国だけでは食い止められない。貧困国の雇用、医療、衣食住をどう支援して疾病を抑え込むか。格差解消も課題だ。重症急性呼吸器症候群(SARS)と違い、数カ月で収束せずに数年間続く長期的危機で、共に回復するには公平で持続的な環境を作らねばならない。

 蟹江氏 コロナ後の経済再生や国際協調、持続可能性でどんな教訓を学ぶべきか。

 竹中氏 健康と経済はトレードオフでなく、健康問題を解決しなければ経済回復はない。日本は検査数が圧倒的に少ない。シンガポールや韓国などアジアの他国の例に学び、協力体制を整えるべきだ。発展途上国の問題も日本にとって大変重要だ。今回1000億ドル規模の資金が途上国から流出したという。途上国リスクを認識せねばコロナ後のSDGsは実現されない。

 リモートワークは働き方と都市構造を変える。郊外に比較的広い家を持ち、都心に小さな住居を持つ人が増えるだろう。これは地方創生の大きなきっかけになる。だが現行の労働法制では賃金が成果に対して支払われる仕組みになっていない。コロナ後をにらむ構造改革で社会全体のシステムを変えなければリモートワークは一時的現象に終わる。

 サックス氏 東アジアとオーストラリア、ニュージーランド、ベトナムは死亡率が低く、ある程度ウイルスの封じ込めができている。マレーシアなどのアジア太平洋地域でも封じ込められれば、域内のヒト・モノの往来が可能になり、回復の兆しになる。インドネシア、インド、パキスタンは大きな感染リスクにさらされている。サプライチェーンの点で大打撃であり、アジア管内での協力が重要だ。

 過去の経済には戻れない。米国では既に金融、法務、教育、医療など多くのサービス業がオンラインに舵(かじ)を切り、Eコマースが拡大してデジタル経済へ移行している。銀行、保険業、広告代理店、法律事務所は在宅勤務が基本になり、多くの企業が広いスペースを必要としなくなる。これは継続的なトレンドになるだろう。在宅勤務で通勤時間を削減できれば教育や休暇、家族とのコミュニケーションの時間が増える。輸送規模も縮小して石油、ガスの消費は大幅に下がった。内燃機関の車が減って電気輸送機関を使うなど長期的な変革が起こるだろう。再生可能エネルギーの輸送機関ができれば、さらに大きな変化が生まれる。各セクターで失業者が出るが、生産的で持続可能な活動で彼らを再雇用するべきだ。再エネ、スマートグリッド、新しい輸送システム、環境、安全、インフラ改善への投資で生活の質を上げ雇用を拡大できる。

 竹中氏 戦後の世界秩序では、米国がルールメーカーとして重要な役割を果たしてきた。だがトランプ政権下でその役割はまったくなくなっている。日本はルールメーカーにはなれないが規範を形にする「ルールシェイパー」の役割を果たさねばいけない。アジアでの協調体制作りが重要だ。バブル崩壊のように一気に秩序が変わる可能性がある。世界で環境問題の重要性が認識され、化石燃料離れが加速する可能性が高まっている。ガソリンエンジンを使う日本の自動車産業やエネルギー関連産業の動向は株価や産業の未来にも影響するだろう。

 蟹江氏 経済・社会の変化がSDGsへと向かっている。大変な時代になるが、先を見すえて仕事、働き方、経済の立て直し方を考えていくことが大事だ。

(つづく)

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