日経SDGsフォーラム シンポジウム

コロナ後の経済蘇生へ 持続可能な新常態を(下)

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 主要国が相次ぎ経済活動の規制緩和に動いているとはいえ、新型コロナウイルスとの戦いはなお途上にある。一方、国連が2030年達成を掲げる持続可能な開発目標(SDGs)は世界に待ったなしの対応を迫る。経済蘇生とSDGsをどう両立するか――。日本経済新聞社と日経BPは5月14日、都内で「日経SDGsフォーラム」の無観客シンポジウムを開催。識者らは一変した仕事・暮らしと向き合い、持続可能なコロナ後の新常態を構築すべきだと訴えた。

■挨拶
環境相 小泉 進次郎 氏

社会経済 再設計へ

 環境省は社会変革担当省、SDGs担当省として、コロナからの復興とSDGs両立を目指し、社会経済の再設計を推進する。今年は、脱炭素経営やESG(環境・社会・統治)金融を促進する賞を創設、表彰した。国立公園で千人規模の雇用維持・確保を進めるほか、国立公園でのリモートワークやワーケーションを可能にする環境を整備する。宅配への電気自動車導入や自立分散型社会実現、ゼロカーボンシティ化を支援する。

 

■企業講演
住友林業 代表取締役会長 市川 晃 氏

木造・緑化技術で未来都市

 2030年までのSDGs達成の取り組みを示した日本のアクションプランのうち森林・林業は4分野で様々な社会課題の解決に貢献する。国内森林面積の約4割を占める人工林は持続可能な資源で、価値向上へ管理が重要だ。継続的で安定的な木材資源の確保と二酸化炭素(CO2)吸収量の拡大には主伐期を迎えた木の伐採・活用と再造林が必要だが、林業低迷で山の荒廃が懸念されている。

 林業活性化には「生産性と付加価値を高めた価格競争力強化」と「住宅建築物以外の新たな木材需要創出」が重要だ。両課題について、国は林業成長産業化総合対策や森林経営管理法などの施策を出すと共に、低層の公共建築物の木造化を推進している。木造建築の規制緩和も進んでおり、民間でも非住宅建築物への木材利用が活発化している。

 住友林業グループは山林経営から建築まで独自のビジネスモデルを展開する。長きにわたる社有林経営で培ったノウハウ、ICT(情報通信技術)による森林管理法や技術開発力を生かし、地方公共団体向け森林コンサルティング事業を展開、地域活性化につなげている。林地未利用木材を燃料とする木質バイオマス発電と関連事業を展開し、自然エネルギー拡大と森林の付加価値向上に取り組んでいる。

 18年に発表した「W350計画」は創業350年目の41年をめどに、都心に高さ350メートルの木造超高層ビルを建築、生物多様性の保全に貢献する緑化技術と共に持続可能な未来都市を形成するものだ。内外の関係機関と協力し、計画実現へ着実に歩みを進めている。

■基調講演
国連責任投資原則協会(PRI Association) 理事/経済産業省参与 テスラ 社外取締役 水野 弘道 氏

ESG 日本がリーダーに

 私は5年間、年金積立金管理運用独立行政法人のCIO(最高投資責任者)としてESG投資に取り組んできた。就任当初、世界の大手年金などを研究し、長期的にポートフォリオの価値を上げるには世界経済がサステナブルでなければいけないという結論に達した。そしてESGに着目し、そのコンセプトを日本で伝え続けてきた。

 近年、海外の投資家や企業は急激にマルチステークホルダーやサステナビリティの考え方にギアチェンジしている。日本には昔から類似のコンセプトである「三方よし」の考えがあったが、逆にそれが日本の変化の妨げになっているように思う。既に欧米は六方よし、七方よしの世界を目指している。欧米に追い越されないように日本もギアチェンジが大切になる。自信を持って哲学をさらに展開していけば、日本企業はESGやSDGsの世界でリーダーになれるのではないか。

 新型コロナウイルスを巡る現状は、ESG投資家が本当にESGを自分たちの哲学に落とし込んでいたかどうかが分かる機会でもある。短期の相場変動を目の当たりにして、今後どう挽回していくのか、投資家も政府も企業と共に考える必要がある。欧州では既に、生き残りの議論とは別に、どのように質を保って挽回していくかが議論されている。

 企業を評価する時に、いわゆる財務諸表に載っているデータだけで評価する時代は終わりつつある。ただ、ESGに関わるところはまだデータがない。今後一段とディスクロージャーを進めていくべきで、それを求める声も高まっている。

■企業講演
東京センチュリー 取締役 専務執行役員 経営企画部門長 馬場 高一氏

長期展望、事業特性に合わせて

 当社は合併で発足した金融・サービス企業であり、国内外の有力パートナー企業と連携して事業領域の拡大を図ってきた。環境に配慮した循環型経済社会の実現を経営理念に掲げ、SDGsに関しては中期経営計画に呼応した3年間のロードマップを策定。経営会議の諮問機関としてサステナビリティ委員会とサステナビリティ推進室を設置し、実践的な活動を目的とした組織対応を進めている。

 具体的な取り組みとしては、京セラとの共同出資で太陽光発電事業を展開。全国70カ所以上、300メガワット以上の容量で稼働してクリーンエネルギー供給に貢献する。業界に先駆けて公募形式のグリーンボンドも発行して100億円を調達。その資金は太陽光発電用の設備投資に充当している。海外でも2国間クレジット制度を活用した低炭素技術拡大のサポートを推進。新事業創出の事例としては、サブスクリプション事業推進のため3社共同でECマーケットプレイスを開設。見守りサービスやPOS(販売時点情報管理)レジなど多様なサービスを提供する。モビリティと地方創生を通じた社会インフラ整備、持続可能な資源利用にも取り組んでいる。

 サステナビリティ経営の対象範囲は幅広い。ロードマップ策定のポイントは(1)課題の明確化(2)責任部署の明確化(3)スケジュールの大枠の決定――の3点だ。この過程で非財務目標のKPI(成果指標)などの開示情報を拡充し、ステークホルダーとの結びつきも深まる。背伸びしすぎず、ビジネス特性やビジネス構造に合わせて、中長期的な展望を持ちながら一歩ずつ着実に進めることが肝要だ。

■パネルディスカッション
パネリスト
シブサワ・アンド・カンパニー 代表取締役/コモンズ投信 取締役会長 渋澤 健 氏
ビル&メリンダ・ゲイツ財団 日本常駐代表 柏倉 美保子 氏
日経BP 日経ESG 発行人 酒井 耕一

資金の流れ インパクト重要

 酒井 資産運用と社会貢献はどう両立できるか。

 渋澤氏 SDGsの達成には新たなお金の流れを作ることが必要だ。目先の収益も大切だが、長期的な視野も重要だと考え、コモンズ投信では30年の長期投信を掲げている。最も強い会社に投資するよりも、時代が変わることで進化できる会社への投資こそが大事ではないか。インパクト投資では途上国を中心にかなりの高リターンを出すファンドもある。民間企業や政府など様々なマルチプレーヤーが連携し、新たなお金の流れと人材を支えるエコシステムが日本には必要だ。

 柏倉氏 当財団は主に国際保健などの分野で世界の貧困撲滅へ活動している。日本では多様なセクターやリーダーと連携し、途上国へ送るリソースとソリューションを最大化する。例えばNECの指紋認証技術を活用し、途上国のワクチン予防接種推進の実証実験をしている。日本のイノベーションには期待しており、持続可能かつ社会にインパクトを出せるという両輪を持つ企業と対話していきたい。

 酒井 お金の流れを作り研究開発や社会課題の解決につなげるには何が大切か。

 柏倉氏 責任投資原則のESGの価値基準はおのおのの価値観で成り立っている。消費対象が児童労働に触れていないか、どんな気候変動対策がなされているか、普段の消費と投資に関する自分の価値観を振り返ることが原点だ。コモンズ投信のようなプラットフォームのオプションがソーシャルな文脈で増えていけば、より多様な金融商品が出て活発になると感じる。

 渋澤氏 若い世代の起業家は社会貢献意識が高く、ソーシャルIPO(新規株式公開)を目指す人もいる。しかし、インパクトを測る工夫が必要だ。ESG取引所やソーシャルIPOで必要になるのはメジャーメントだ。インパクトのメジャーメントの試行錯誤が大切になる。そこに正しい答えを求めるのではなく、人類共通の目標としてSDGsを「やりたいかどうか」というふうに、正しい問いかけをしていくことが大事だと考えている。

■企業講演
三菱UFJフィナンシャル・グループ 取締役 代表執行役社長 グループ CEO 亀澤 宏規 氏

企業・個人の意識変化進む

 当グループ(MUFG)は社会機能の維持に不可欠な金融インフラを守るとの使命のもと、新型コロナウイルス感染拡大下で安定的な資金決済機能の提供や迅速な資金繰り支援に対応している。また、医療産業、学生、芸術への総額25億円の寄付・支援や、治療薬・ワクチンの研究開発を目的に100億円の投資ファンドの設立を行う。

 ファイナンスを通じた取り組みでは、昨年5月に日本の金融機関初のサステナブルファイナンス数値目標を発表。2030年度までに累計20兆円の実行を目指し、19年度の実績は3.7兆円と順調に推移した。

 サステナブルファイナンス推進のために、昨年8月にサステナブルビジネス室を設立。19年度はESG関連目標の達成状況に応じて金利が変動する「サステナビリティ・リンク・ローン」を本邦初案件含め3案件成約させた。顧客のESGの取り組みを評価して融資する「ESG経営支援ローン」も展開している。

 昨年10月にはグリーン、ソーシャル、サステナビリティを含む国内初の包括的なボンドフレームワークを策定。12月には国内民間金融機関初となるソーシャルボンドを発行した。今年5月には新型コロナウイルス関連の資金使途も追加した。

 二酸化炭素(CO2)の自社排出量削減にも取り組んでおり、30年度までに自社調達電力の100%再エネ化を目指す。

 新型コロナウイルス感染拡大で政府・企業・個人の行動や意識は大きく変容する可能性が高く、SDGs実現へのモメンタムは一層高まると考え、サステナビリティ経営を加速する。

■企業講演
野村アセットマネジメント CEO 兼 代表取締役社長 中川 順子 氏

ゴールから考える手法必要

 SDGs達成へ資産運用会社が果たす役割は大きい。中長期的視点に基づく投資で企業の取り組みを後押しするとともに、広くESG投資の機会を提供し、パートナーシップ活動を通じてSDGs達成の動きをリードする必要がある。

 一方、近年の急激な変化の中、労働環境や技術革新といった中長期的な課題にも短期での対応が求められている。投資手法やビジネスでも、新たな解決策を創造するステージに入っている。

 当社でもSDGsに代表される社会課題をより意識した事業運営を行っている。事業を通じた社会貢献の形として力を入れているインパクト投資は、経済的・社会的リターンの両立を目指す投資方法だ。目に見えにくい社会的インパクトやリターンに対してインパクト・ゴールを設定した上で定量的に測定して見える化を実現する。同時に、投資先企業に対するエンゲージメントやモニタリングも大切にしている。例えば、新型コロナウイルスに関して、パートナーシップ活動の一環で世界の大手製薬企業に投資家ステートメントを送付し、順守すべき事項を語りかけている。

 当社は昨年3月に「ESGステートメント」を策定し、気候変動を最も重要なESG課題の一つと認識し、気候関連のリスクおよび運用の高度化の観点からTCFDに賛同。全社的なポートフォリオの気候関連分析を完備し、運用の意思決定やリスク管理に役立てている。

 一連の取り組みを通じ、社会的課題の解決やSDGs達成に貢献することで持続可能な社会の実現に貢献していく。

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