現場発で考える新しい働き方

「自分の働き方」は自分で決められないのか 弁護士 丸尾拓養

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労働者の同意により労働条件を自由に決められるか

 このような公法的規制に対する違反であっても、労働者個人の同意によって違法とならないことがあります。たとえば、2014年の最高裁判決は、均等法9条3項の「不利益取扱い」について、例外的に「同項の禁止する取扱いに当たらない」ことを認めます。その一つの例が労働者の承諾ですが、「当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき」としており、この例外を容易に認めるものではありません。もっとも、並立するもうひとつの例外である「特段の事情が存在するとき」と比較すると、そこまで厳格に解するものではないようにも読めます。

 こうした労働者個人の同意により公法的規制の一種の適用除外を認める考え方は、その後の割増賃金の定額払いや組込払いを認めた最高裁判決にもうかがえます。これまで一般的には、労働条件について、法律により最低基準を一律に決めて、就業規則により一定範囲まで決めて、使用者の決定により具体的内容が決まっていました。しかし、この決定プロセスの中の法律による最低基準の部分にも、個別労働者の同意が影響し得るようになり始めています。これは、働き方の多様化の中で、この決定プロセスが機能し難くなっている面があることを物語るのでしょう。

 しかし、一方で、2019年4月施行の改正労基法では、36協定の上限が規制され、この上限を超えて働くことは、どんなに労働者が働きたくても、違法となることになりそうです。これまでは、労使が限度基準を超えた時間数で36協定を締結した場合、違法にはなりませんでした。改正法では、締結する36協定の内容自体が強行的に規制されます。しかも、2019年3月に厚生労働省が発表した「改正労働基準法に関するQ&A」では、「Q 副業・兼業や転職の場合、休日労働を含んで、1か月100時間未満、複数月平均80時間以内(法第36 条第6項第2号及び第3号)の上限規制が通算して適用されることとなりますが、その場合、自社以外での労働時間の実績は、どのように把握することが考えられますか。」と書かれていて、副業・兼業と転職でも、上限規制の対象となる労働時間が通算されることが当然視されています。このQに対する「A」には「労働者からの自己申告により把握することが考えられます」と記載されていますが、こうなると36協定の上限規制は使用者にとっての規制であると同時に、転職しても属人的に付随する個々の労働者にとっての規制であるようにも見えてきます。

 もちろん、労働条件を過度に労働者の同意に委ねることによる弊害はあります。一方で、労働条件を過度に法律が規制することにより、労働者の自由が過度に制約されることにもなりかねません。全国一律の最低賃金と硬直的すぎる「同一労働同一賃金」という考え方が根底でつながるものであれば、あまりにも個別の雇用の実情に理解を示さないものであるとの批判も生じるでしょう。

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