現場発で考える新しい働き方

「自分の働き方」は自分で決められないのか 弁護士 丸尾拓養

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 雇用というと「指揮命令」が中核であるように言われます。しかし、転勤命令も内示があって、労働者の意向を聞いてから発令されるのが通例です。時間外労働や休日労働も、特にホワイトカラーでは、労働者が自分で決めて行い、上司が事後に承認するのが通例でしょう。ここに指揮命令の要素は後退します。労働者個人に相応の自由があり、労使自治がそれを支えます。法律が広く一律に規制することは、個人の自由と抵触することにもつながりかねません。

労働条件の最低基準は労基法で定められる

 最低賃金を全国一律にするという話が報道されました。一部の官僚の個人的な意見とされたようです。これまでは、都道府県の地方最低賃金審議会で個別に最低賃金が決定されてきました。これを全国一律とすることは、これらの機能を無にするものでしょう。なによりも地方の実情の相違と相容れないものでしょう。それでも、派遣労働者についての同一労働同一賃金の在り方では、これを先取りするような動きが見られます。

 「労働者であることでは同一であるのだから、最低賃金は全国一律に同一であるべきだ」といった議論の立て方はよくみられることです。「労働者」を「国民」や「人間」とすることもできます。最近では高額医療や教育の分野でも類した議論があります。しかし、ここでは、差異は看過されます。一律に扱うことは簡易なルールですが、実際には労働者AとBとでは異なる点もあります。AはAとして、BはBとして扱われたいときもあるでしょう。

 労基法3条は「労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として」、同法4条は「労働者が女性であることを理由として」、「差別的取扱いをしてはならない」と規定します。「理由として」の差別的取扱いが禁止されます。現パートタイム労働者法9条も「短時間労働者であることを理由として」とし、2020年施行のパートタイム・有期雇用法9条は「短時すべき短時間・有期雇用労働者であることを理由として」とします。不合理な労働条件を禁止する2013年施行の現労働契約法20条では「期間の定めがあることにより」となり、同条が移行する上記パートタイム・有期雇用法8条では「当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において」となっています。

 このような「差別的取扱いの禁止」または「不合理な労働条件の禁止」は、講学上、公法規制と呼ばれます。国が使用者または事業主に対し規制し、違反に刑罰等を以って対処するものです。これに対し、私法的な世界は、当事者である使用者と労働者との間の民事上の権利義務を調整するものであり、当事者間の合意が基本的に優先します。

 実は労働法の世界は、公法上の規制が中心でした。公法の代表が労働基準法であり、雇用に関連する法律はほぼこちらです。私法的なものが労働契約であり、その内容となる代表が就業規則です。しかし、この公法的な部分と私法的な部分はときに交錯します。交錯する場面のひとつが割増賃金です。就業規則で「割増賃金を支払わない」と労働条件を規定しても、労基法37条の最低基準に反するので無効となり、労基法37条で定める基準が労働契約の内容になります。もっとも、これは労基法13条が存在するからであり、その他の場合は「公序」などを用いて就業規則に定める労働条件を無効とし、その後は一般的な不法行為で処理されます。

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