病を乗り越えて

働く意味を問う ワークとライフは「溶け合う」 サッポロビール人事部プランニング・ディレクター 村本高史

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

ワークとライフが溶け合う先に

 結局、思い出深い担当期間は4年にわたった。その間に携わったのはTVCMだけでも100本近くに上る。立ち上げ時の激動の3カ月に比べれば、残りの3年半は自信をもって取り組めた気がする。

 もちろん、すべてが順調だったわけではない。2年目の競争の中で自社も価格の10円引きを行わざるを得ず、3年目は発泡酒が増税となる。4年目には自社が画期的な第3のビールを本格展開し、話題の主役を譲ることになった。

 それでも、一定の売り上げは維持した。営業の販売努力や製造部門の品質への取り組みも大きい。一方で、話題になるような広告宣伝や販促キャンペーンは、自身が責任を持って進めた。それらが多くの人たちに支持された結果だ。

 当初は全面的にフォローしてくれた部長や上司も、ほぼ任せてくれるようになり、「ここが自分の現場だ」と思える仕事は本当に充実していた。2002年、人々がサッカーに夢中になる中、休憩時間に試合を観ていたスタッフたちは、仕事になった瞬間、真剣な表情に一転した。趣味だった映画の話も交えながら、社外の仲間たちと議論した。

 3年目のTVCMは世間に強いインパクトを残し、4年目は北海道上富良野町を舞台に、企業としての強みである原料へのこだわりを訴求する先駆けになる。早朝から原料生産者の畑に赴き、撮影が早めに終わると公園で草野球を楽しんだ日もあった。休日に仕事をしたり考えを巡らせたりする日もあったが、仕事と生活がよい循環となり、一つに溶け合っていったようにも思える。

 時間の観点で、ワークがライフと対峙するならば、ワークがライフを侵食してしまってはよくない。少なくとも、長期的にそうあってはならない。

 別の観点で、人生における意味合いにおいては、ワークとライフは対峙するものなのか。そうではなく、相互のエネルギーを交換しながら、うまく循環していくこともあるのではないか。そして、両者が溶け合いながら、人生全体を充実させていくこともできるのではないか。

 働くことを支える意識には、職位や所属に応じて企業・組織から一人ひとりに付与された役割意識と、職位や所属に関係なく、一人ひとりの内側から沸き起こる使命感があると、私は考えている。役割意識と使命感が少しずつ重なっていくとすれば、その時、ワークとライフは1つに溶け合い、その人の人生全体をかけがえのないものにしていくのかもしれない。

 懐かしい日々は遥かに遠ざかりつつ、北海道生搾りは19年目の春を迎えている。

村本高史(むらもと・たかし) サッポロビール株式会社人事部プランニング・ディレクター
1964年東京都生まれ。1987年サッポロビール入社。マーケティング部門と人事部門を交互に経験後、40歳以降、サッポログループの人事部門グループリーダー(課長職)を歴任。2009年、44歳の時に頸部食道がんを発症し、放射線治療で寛解。11年、サッポロビール社の人事総務部長を務めていた際にがんが再発し、手術で食道を再建すると共に、声帯を含む喉頭を全摘。その後、食道発声法を習得し、話せるようになる。14年秋以降、創造変革職(専門職)としてコミュニケーション強化等の組織風土改革に取組みつつ、闘病体験や思いを語る「いのちを伝える会」を社内等で開催。現在は社外でも講演等を行うほか、厚生労働省「がん対策推進協議会」委員も務めている。

キーワード:経営、企画、人事、経理、営業、技術、製造、学生、経営層、管理職、プレーヤー、働き方改革、マーケティング、人材、研修 

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。