現場発で考える新しい働き方

4月から「有給5日取得」が義務化、気になるポイントは? 弁護士 丸尾拓養

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労働者個人のバランシングをサポート

 年次有給休暇を1日もとらずに働くことが家族のためだと考える人もいるでしょう。より正しく言えば、家族のために働いた結果として年次有給休暇を1日もとらなかったのでしょう。これも1つの「仕事と私生活の調和」として尊重されるべきであると思います。バランシングにモデルはなく、個人が自分で決められることが理想です。しかし、理想を追いすぎれば、指揮命令下にある労働者であることは難しくなります。その中間の1つが「非正規雇用」と呼ばれた働き方なのでしょう。しかし、これからは正規雇用と非正規雇用のそれぞれが多様化し、かつての「正社員」は少なくなるのかもしれません。それは社会全体でのワークライフバランスの実現です。

 最近の研究に、自営業・家族従事者の減少に着目したものがあります(神林龍「正規の世界・非正規の世界」慶應義塾出版会、2017)。被用者でなくなり自営業者となればワークライフバランスが実現する、というのは幻想でしょう。雇用されることと「自分が自分のボスになる」ことは両立できるような気がします。バランシングを他人任せにしないのです。

 一方で、バランシングを見失っている労働者も少なくありません。「会社の指揮命令により長時間労働となり、恒常的長時間労働となり、心身の負荷が過度に蓄積した」というストーリーは、或る面では当たっているし、或る面では当たっていないでしょう。裁判例のいくつかは、会社または上司の「放任」を、不作為を過失としています。法的世界ではないですが、上司以外の周りの人がどうして気づかなかったのか、とも思います。

 労働時間把握について、「使用者は、労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有している」とされます。しかし、使用者が受け身で「やらされる」のではなく、バランシングを見失っている人に手を差し伸べられるような職場環境を構築する方が組織としては健全な姿でしょう。おそらくこれができている組織とできていない組織との差が大きいのだと思います。

 「使用者」という「身分」に着目した労基法の規制は実態に乖離しつつあり、もはや機能し難くなっています。組織論として、職場環境や雇用環境のリスクに対応すべきです。そこでは、各「従業員」と労働組合も当事者です。自分でバランシングを考えること、考えようとすることがスタートの1つです。

 こうした実態の中に、5日の年次有給休暇の指定が持ち込まれました。「休息、娯楽及び能力の啓発のための『機会』」は、労働者にとっての機会です。年次有給休暇の付与や年次有給休暇の確実な取得は手段であり、機会を活かすか否かは労働者にかかっています。5日の年次有給休暇は、「長時間労働抑制」のためではなく、労働者に「働き方」を考え直す契機(きっかけ)をもたらすものであることが望まれているのでしょう。

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丸尾 拓養(まるお ひろやす)
丸尾法律事務所 弁護士
東京大学卒業。第一東京弁護士会登録。

キーワード:経営、企画、人事、経理、営業、経営層、管理職、プレーヤー、働き方改革、マーケティング、人材、研修

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