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なぜ50歳代は高給なのか これからの「賃金カーブ」の行方 弁護士 丸尾拓養

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 労働者の賃金が20歳前後の入社から60歳の定年まで描く曲線を賃金カーブと呼びます。同一「労働」同一賃金を徹底すれば、同じ経路で同じ荷物を積んだトラック運転手の賃金カーブは、40年間にわたるフラットな直線になるとも考えられます。年齢や経験年数で賃金が上がるならば、同一「労働」ではないことを意味するはずです。勤続により能力が上がるから賃金が上がるとすれば、「労働」は「能力」も含むことになります。しかし、「能力」とは何でしょう。

なぜ50歳代の労働者の賃金は高いのか

 賃金には生活給の側面があります。家族の生活を支えるためには相応の収入が必要です。しかし、40歳で家族3人を扶養している労働者と、同年齢で単身の労働者との間で、職場において同じ「労働」をしているのに、家族の有無や数で賃金が異なることは、社会の理解を得られるのでしょうか。その差異は不合理、そして違法なのでしょうか。

 そもそも賃金を個別に定めることは適法です。Aという労働者の時間単価をX円とし、Bという労働者の時間単価をY円とすること自体は適法です。契約自由の原則からすれば、使用者とAまたはBという各々の労働者が合意できれば、他の労働者の賃金がいくらであれ、当事者間の契約が無効とされるのは例外的です。

 賃金は本来、個別に決めるものなのかもしれません。労働基準法には、「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである」という条文があります。労働契約法には、「労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。」という条文があります。

 同法1条は「この法律は、労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則その他労働契約に関する基本的事項を定めることにより、合理的な労働条件の決定又は変更が円滑に行われるようにすることを通じて、労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的とする。」としています。「自主的な交渉」を挙げています。

 しかし、使用者としては、白紙の状態から個別に賃金額を決定することには工数がかかります。なんらかの枠組みの中で決めると工数を軽減できます。このため、就業規則である賃金規程に賃金表(賃金テーブル)をつくり、その範囲内で個別労働者の賃金を決定します。

 このことを1968年の最高裁の大法廷判決は、「就業規則によって、まず、労働条件の基準を決定し、その基準に従って、個別的労働契約における労働条件を具体的に決定する」と表現しました。その直前には、「多数の労働者を使用する近代企業において、その事業を合理的に運営するには多数の労働契約関係を集合的・統一的に処理する必要があり、この見地から、労働条件についても、統一的かつ画一的に決定する必要が生じる」との一節が置かれていました。

 一人の労働者を賃金テーブル間でどのように動かすかを、昇格、昇進といいます。これは使用者の人事管理、人事権行使の結果です。しかし、これは「管理」というよりも、上記の「事業を合理的に運営する」ための手法です。そこでは、事業を継続的・安定的に運営するために、使用者が長期雇用を求めました。ひとたび入社した新卒労働者が60歳の定年まで継続して就労することは、使用者にとって「合理的」であったのです。そのために長期間にわたり就労したことへの「報酬」として、または「対価」として、50歳代の労働者に対する高い賃金と高額の退職金が用意されました。「同一労働同一賃金」という考え方よりも、長期雇用という労使双方の利益のためにどのような賃金システムが機能するかが優先していました。

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