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中国の天下は続かない(上)雇用と教育からみた「急成長の歪み」 雇用ジャーナリスト 海老原 嗣生

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35歳以上の大卒ホワイトカラーが極端に少ない

 中国経済の話をするときに、もう1つ大きなポイントがある。それは、経済がここ20年に急激に発展したため、長く企業経営に携わっているミドル人材の層が極端に薄い、ということだ。

 少し考えてみよう。中国の改革開放路線は鄧小平時代に開始したが、当初それは遅々としたスピードでしか進まなかった。しかも悪いことに1989年の天安門事件で西側諸国のバッシングを受け、経済発展はここで腰折れする。結果、1990年の段階では中国のGDPは日本の約8分の1しかなかった。同国が年率10%以上の高度経済成長期入りするのは1994年のこと。その後、2000年に日本の4分の1、2009年に逆転、そして2014年に2倍、と猛スピードで経済規模を拡大させてきた。

 つまり、2000年時点では日本経済の4分の1しかなかった同国では、当時から産業界に身を置くベテラン企業人は本当に少ない。40代の熟練マネジャーやエンジニアがことのほか少ないのだ。

 これは学歴でも同じことがいえる。

 元々、中国では大学の数が少なく定員枠も小さかった。共産党幹部職を目指すなど、一部の優秀層のみに高等教育は門戸が開かれていたのだ。1990年時点では高等教育進学率はわずか3.4%(進学者数60.9万人)。その後、徐々に大学進学率は上がり出すが、1995年で7.2%(92.6万人、現在彼らが40~41歳)、2000年でも12.5%(220.6万人、同35~36歳)とまだまだ多いとは言えない。これら数字からもわかることだが、30代後半以上の大卒者は同国には少ないのだ。

 この2つの歴史的経緯があるから、現在の中国経済界は恒常的なミドル人材の供給不足であり、勢い、若年人材の獲得競争が盛んになる。だから、あくなき昇給を求めてジョブホップする特異な就労環境が成り立つのだ。こうした背景を考えずに、「日本も中国のように」などと中国型キャリアをほめそやす論考には、問題があるといえるだろう。

粗製乱造で3000大学。上位校と普通校に大きな格差

 ちなみに、中国の高等教育進学率は、2005年に20%(進学者数で504.5万人)、2012年には30%(688.8万人)、2015年には40%(737.8万人)をも超える。30歳未満に限れば、過去とは不連続なほどに大卒人材が多くなる。当然、教育インフラの拡充は追い付かず、大学はまさに粗製乱造状態が続いた。

 当時のデータでみると、1998年から2007年のたった9年間に、大学在籍者数は340.9万人から1884.9万人へと、一挙に5.5倍にも膨れ上がり、大学は教員確保に難渋する。そこで、高校教師や大卒の企業人などから敷居を下げて専任教員として迎えている。それでも教員数は40.7万人から116.8万人と2.8倍にとどまり、学生数の増加には遠く及ばなかった。10年ほど前に私が取材で訪れた新設大学には、バラック建ての校舎に椅子だけを並べて机のない教室があったのを思い出す。

 こんな、大卒とは名ばかりな人材の大量供給が起きている。

 一方で985プロジェクトや211プロジェクトなど国家主導の高級人材育成政策が打ち出され、それに指定された上位3%程度の大学ではとてつもなく手厚い教育体制が敷かれる。当然、その差は就職にも大きく影響を及ぼしている。

 2008年の調査で見ると、専科大学生の初任給を100とすると、本科大学生(一般的な大学)は131、211指定大学生は169、最上位の985指定大学生は190とほぼ2倍にもなる。それから10年たった現在では、大学生数はさらに2割増え、カバレッジは下方に拡張したため、格差は一段と激しくなっているだろう。

 ここまでの歴史的経緯をまとめてみよう。

 中国ではミドルの人材層が極端に薄い。また、30代後半以降の大卒者が少ない。そのため、若年偏重の人材獲得競争が起こっている。一方で若年人材は、急激に大学進学者を増やしたため、玉石混交となっている。

 こうした中で、985指定大学や211指定などの上位数%学生、もしくは海外トップ大学卒業生にのみ、超高額&ハイレベルな仕事が用意されている。ただこうしたハイレベル層に限っても、人口の多い中国では、年間数十万人規模となり、その事例には事欠かない。こうした情報が日本のマスコミに取り上げられることで、それがあたかも中国の一般的なキャリアと思われてしまっているのだろう。

 ただ、急拡大かつジョブホップ型エリート育成が続いた中国経済界では、まともな人事管理ができてはいない。その問題点を次回以降、書いていくことにしたい。

海老原 嗣生(えびはら・つぐお)
1964年、東京生まれ。大手メーカーを経て、リクルートエイブリック(現リクルートエージェント)入社。新規事業の企画・推進、人事制度設計等に携わる。 その後、リクルートワークス研究所にて雑誌Works編集長。2008年にHRコンサルティング会社ニッチモを立ち上げる。雇用・キャリア・人事関連の書籍を30冊以上上梓し、「雇用のカリスマ」と呼ばれている。近著は『「AIで仕事がなくなる論」のウソ』(イースト・プレス)。

キーワード:経営、企画、人事、経理、営業、技術、製造、学生、経営層、管理職、プレーヤー、働き方改革、マーケティング、人材、研修、就職、就活、就活ルール

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