現場発で考える新しい働き方

身に付いた「労働者の能力」は企業と本人どちらのものか 弁護士 丸尾拓養

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雇用の流動化の中で企業が労働者に求めるものは何か

 労働者の心身に備わる能力が標準化されたものとなった場合、労働者が転職することは容易となりますが、逆に、企業が別の労働者で代替することも可能となります。いわんや能力の陳腐化が短期に生じるのであれば、労働者自身が能力開発の主体となることが求められます。「同一労働同一賃金」が強調されるとき、能力の陳腐化は賃金低下につながりかねません。

 「能力」や「キャリア」という名のもとに何が求められているのかを、あらためて検討する時期に来ているようにも思われます。そして、それらを個人単位ではなく組織単位で見ること、そして職責や役割単位で見ることも重要でしょう。組織からの退出を求められた解雇の事案をみたとき、問われていたのは組織の一員としてのコミュニケーション力であるような気がします。コミュニケーションがとれれば組織の中で長期雇用される基礎力となります。企業は必ずしも高度の能力を中高年まで求め続けてはいないでしょう。

 管理する・組織を動かす、仕事を進めるという力量は、このコミュニケーション力とは異なります。決断力、先を見る力、大局観などは仕事を通じて育成されるものではないのかもしれません。仕事を通じて顕在化するのでしょう。1973年の最高裁判決の大法廷判決には、「その者の資質、性格、能力その他上告人のいわゆる管理職要員としての適格性の有無に関連する事項」という一文があります。管理職要員としての適格性の有無に関連する事項として、資質、性格、能力が例示されています。能力はおそらく後天的ですが、資質は先天的なものです。性格は双方に関係するのでしょう。45年以上前の判決ですが、今日にも十分に通用する内容です。

 労基法の指揮監督を受ける労働者、「育成」論での教育を受ける労働者という見方は、やや一面的なものであり、現在ではいっそう修正を求められるでしょう。さらに「働き方改革」の下で労働者が「働き方」を改革することを迫られます。兼業・副業や労働時間規制も「同一労働同一賃金」も、違う側面が見えてきます。

 一方、企業も、雇用の流動化が進む中で、自社で働くことの労働者にとっての利益を労働者に示すことが必要となるでしょう。管理職要員ではなく、安定的な長期雇用要員としての労働者のリテンション策です。「管理職」というのはその施策のひとつだったのかもしれません。ここ数年の労働力不足は企業にその見直しを迫る機会であったようにも思えます。今後の労働力需給がどう転じるにせよ、「働かせ方」の基本はそれほど変わらず、それこそ労基法が施行された70余年前とも変わらないでしょう。しかし、変わるべき部分を看過しないことも重要です。

 雇用を巡る近年の動きには、やや一方的な、形式的な、硬直的な面も見られます。ガイドラインや指針はあくまでも参考であり、企業も労働者も自分自身で考えることが何よりも求められているはずです。考えることを止めることなく、組織を動かしていくことが重要です。そのための施策はそれほど難しいものではないのかもしれません。

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丸尾 拓養(まるお ひろやす)
丸尾法律事務所 弁護士
東京大学卒業。第一東京弁護士会登録。

キーワード:経営、企画、人事、経理、営業、経営層、管理職、プレーヤー、働き方改革、マーケティング、人材、研修

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