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海外に学ぶ大学無償化のあり方(上)「誰でも行ける大学」でいいのか 雇用ジャーナリスト 海老原 嗣生

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 それは、老人介護に例えるとわかり易いだろう。

 有料の施設老人ホームは審査が緩く、きちんと費用を支払えば、多くの人が入所可能だ。ところが、格安で利用できる公的な特養老人ホームに関しては、入居に際して要介護レベルなどで認定された人が優先的に入所する。無料もしくは低額で進学できる大学も同様の考え方をしている。厳しく審査されて資格を与えられた人しか入学ができないのだ。

卒業できるのは6割程度が先進国の標準的な数値

 続いて、「無料もしくは低額」で大学進学できることの裏返しで、もう一つ厳しい現実が欧州各国にはある。それは、「中退率の高さ」だ。図表5を見てほしい。

 これは、大学入学者がどれくらい卒業できたか、を各国比較したものだ。日本の数字が群を抜いて高く、95%程度となっている。対して、欧州各国はおおよそ6割程度かそれ以下なのがわかるだろう。この差こそ、授業料の多寡による。

 日本は大学の多くが私立であり、数少ない国公立大学さえも独立行政法人化されて、個別運営されている。こうした状況では、学校運営費の多くを学生の授業料に頼ることとなる。その結果、中退率が高まれば大学は経営がひっ迫する。そこで、「何とか大学につなぎとめ、卒業させる」ようになる。一方、大学運営を学生の学費に頼らず、公費で賄う場合は、学校側は学生におもねる必要がなくなる。そこで、学習成果や学習態度に応じて厳しいジャッジができる。その結果、大学卒業の難易度は上がり、学士取得者はそれにふさわしい能力とステイタスを手に入れられるようになる。

 試みに、各国の25~34歳の若年層の高等教育卒業者比率(大学以外を含む)の数字を図表6に示してみた。

 欧州諸国の大学は3年制と短く、そのうえ他の高等教育機関を含んでいるにもかかわらず、既卒者比率は日本を大きく下回る。そう、今でも日本は「学士あまり」状況にある。

 ここまでを簡単にまとめておこう。

 大学には「行くべき人」が行き、そこで「しっかり学んだ人」のみが学士となる。そうした体制がまずありきで、それにふさわしい人だけが、「貧富の差なく」こうした道に進める。平明なイクォーライゼーション(格差是正)を叫ぶのではなく、厳しさを伴う適正化が無償化の前にあるべきだ。

海老原 嗣生(えびはら・つぐお)
1964年、東京生まれ。大手メーカーを経て、リクルートエイブリック(現リクルートエージェント)入社。新規事業の企画・推進、人事制度設計等に携わる。 その後、リクルートワークス研究所にて雑誌Works編集長。2008年にHRコンサルティング会社ニッチモを立ち上げる。雇用・キャリア・人事関連の書籍を30冊以上上梓し、「雇用のカリスマ」と呼ばれている。近著は『「AIで仕事がなくなる論」のウソ』(イースト・プレス)。

キーワード:経営、企画、人事、経理、営業、技術、製造、学生、経営層、管理職、プレーヤー、働き方改革、マーケティング、人材、研修、就職、就活、就活ルール

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