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ルミネ、資生堂…なぜ優良企業のCMが「炎上」するのか 治部れんげ

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 加えて「需要」という言葉を文字で解説するシーンからは、男性上司が女性部下に期待しているのは仕事の能力や成果だけではなく「職場の華」であること、つまり「女性らしさ」の表出であることが明らかになる。

 続くシーンで主人公女性は、上司の言葉を素直に受け止めて「最近、(化粧や美容など外見を整えることを)サボっていたのでは」と反省する。ルミネで買い物をして、もっと外見を磨いて「新しい私」になろうと決意するわけだ。

 この上司の言動の何が問題だったのか、考えてみよう。

 職場ではビジネスマナーが必要とされる。一部のIT企業やクリエイティブ職を除けば、奇抜な服装はマイナスに受け止められる。最低限の清潔感を保つ必要もあるだろう。そういう意味で、服装や髪型が、ビジネス上の常識に照らして逸脱している場合に、注意を受けることは仕方ない場合もある。

 ただし、動画の主人公女性の服装や髪型など外見は、ビジネスカジュアルの範疇(はんちゅう)に入るものだ。動画に登場する主人公には非難されるようなことはない。ゆえに、批判されるのは上司の言動ということになる。

 女性には仕事の成果ではなく見た目の華やかさを求める――。こうした発想は、数十年前、女性は総合職でもお茶くみを期待されるような暗黙のルールとして表れていたが、今ではほとんど見られなくなった。

 時代が変わり、女性も男性も能力に応じて、自分の職務を果たすべき。そんな風に考える人が増えた今「女性は職場の華」という発想を前面に出した動画が非難されるのも無理はない。動画に登場する上司の言動にはジェンダーに基づく偏見やパワー・ハラスメント(パワハラ)を思わせる要素が何度も見られた。

 当然、若い世代からは反発される。都内の女子大で「メディアとジェンダー」について講義した際、この動画を見せると学生からは「失礼だ」「何のために作った動画か分からない」「制作チームに女性はいたのか」などと厳しい意見が続出した。対象となる層から嫌われてしまったらマーケティングとして失敗だろう。

ルミネの動画から男女を入れ替えてみると…

 前述のとおりルミネは批判を受けて動画を取り下げ、ウェブサイト上に謝罪文を掲載した。

 ここで「何が問題なのか、いまいちピンとこない」という方のために、あえてルミネ動画の会話の男女を入れ替えてみる。これを、どのように思うだろうか。

 若手の男性社員が出勤してくる。後ろから女性上司が追いついてきて「あら、疲れた顔してるわね。昨日は、残業だったの?」と尋ねる。男性社員が「いえ、普通に寝ました」と答え「普通に寝てそれ?」と笑いながら女性上司が歩いて行く。

 その後、挨拶を交わした後輩男性と会話して「あの子、可愛いわね」とか「大丈夫。あなたとは需要が違うから」と言ったとしたら……。

 「いや、こんな会話は成立しない」と思った方には「なぜか」を考えていただきたい。

 それはそもそもあなたの職場に女性管理職がいないから、なのだろうか。女性管理職がいたとしても「こんな失礼なことは言わないから」だろうか。または「男性が職場で求められるのは、見た目ではなく仕事の中身だから」だろうか。

 ここでジェンダー観点から見た、ルミネ動画の問題点が明らかになる。もし、女性管理職がいないとしたら、それ自体は問題ではないのか。女性管理職なら言わないような失礼なことを、男性管理職は部下に言ってもいいのか。そして何より、女性には、仕事の能力だけではなく「女らしい」言動や外見を求め、男性には仕事の能力を求めることが許容されるのはなぜか。同じ職種でも適用される「ものさし」が男女で異なっていることは、昭和の職場ならともかく、平成も終わろうとしている今、認められないだろう。

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