現場発で考える新しい働き方

「転勤」は時代遅れなのか、それとも当然なのか 弁護士 丸尾拓養

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

 「特段の事情」のもうひとつの例である「他の不当な動機・目的をもつてなされたものであるとき」の典型は不当労働行為に該当するようなものです。最近の下級審裁判例では、退職させる目的であったとして、これに該当するとしたものもありますが、特に人員削減を行わなければならない状況において、雇用維持のための転勤と退職させる目的のための転勤との判別は困難です。両方が混在することもあるでしょう。あくまでも当該事案での判断とみるべきです。

 このように裁判所は転勤命令の権利濫用について消極的な姿勢を示していますが、近年、雇用の実態が変わったことにより、転勤を巡る状況にも変化が生じつつあります。内部労働市場を守ってきた大企業も相応に外部労働市場化した結果、労働者が転勤よりも転職を選択する例がみられるようになってきたからです。「余人をもつては容易に替え難い」は転勤命令の対象者である労働者に関するものですが、「余社をもつては容易に替え難い」という当該会社との高度の接着性が弱くなっているのです。

 このため、会社の側で、強い人事権を維持しつつも、一定の場合にその強い人事権を放棄する状況も見られ始めました。「限定正社員」と呼ばれる地域限定や職種限定の仕組みや制度はその例です。地域や職種が限定されるのは、使用者が人事権を自ら限定、すなわち放棄するからです。一般的に、この限定により賃金などの処遇は低くなるとされます。労働契約法20条や有期・パート法8条、9条の「当該職務の内容及び配置の変更の範囲」は人事権の強さと同視できます。正社員であっても、中高年齢に達してから、限定正社員に働き方を変える社員も出てきました。これらは「多様な正社員」というよりは、「多様な社員」と呼んだ方が的確であるかもしれません。

 今後、このような転勤についての紛争も増えてくるでしょう。最高裁の転勤命令についての判断は基本的には維持されつつも、個別事案では多少の揺れが見られることも予想されます。それでも、強い人事権という考え方が維持されるのは、強い雇用保障が守られるべきであるという考え方が背景にあるからです。転勤命令についての人事権が強くなくなったとき、それは会社側が放棄したときも含めて、雇用保障の在り方に変化が生じざるを得ないのでしょう。

お知らせ
丸尾拓養弁護士がセミナーに登壇します。詳細・申し込みは以下でご確認ください。
働き方不良社員への対応と法的実務 2018年12月13日 (木)
メンタルヘルス不全の休職・復職判断と法的対応 2019年1月18日(金)
丸尾 拓養(まるお ひろやす)
丸尾法律事務所 弁護士
東京大学卒業。第一東京弁護士会登録。

キーワード:経営、企画、人事、経理、営業、経営層、管理職、プレーヤー、働き方改革、マーケティング、人材、研修

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。