現場発で考える新しい働き方

企業は「社員のメンタルヘルス」にどんな責任があるのか 弁護士 丸尾拓養

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2000年の判決は誰に何を求めていたのか

 2000年の最高裁判決は、「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである。」と判示しました。なぜ、最高裁はここに「その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し」という一節を付加したのでしょうか。特に「従事させる業務を定めて」を付加したのでしょうか。

 同判決文中には、「使用者又はこれに代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う者は、各労働者がその従事すべき業務に適するか否かを判断して、その配置先、遂行すべき業務の内容等を定めるのであり、その際に、 各労働者の性格をも考慮することができるのである。」との一節もあります。ここでも「その配置先、遂行すべき業務の内容等を定める」という表現が用いられています。

 「その雇用する労働者に従事させる業務を定めて」と、「その配置先、遂行すべき業務の内容等を定める」が示すのは、「強い人事権」であったと思います。そして、繰り返された「使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者」が示すのは管理職です。強い人事権を含め、管理職の権限の行使の在り方が問われていたのが実像でしょう。つまり、管理職の適正な権限の行使が求められていました。最高裁判決がメッセージを送っていたのは、現場の管理職に対してだったのかもしれません。

 最高裁が求めていたのは、安全配慮義務の履行ではありません。「注意」でした。現場の管理職の注意でした。「業務に適するか否か」、「疲労や心理的負荷等が過度に蓄積」していないかを「見る」ことだったのです。恒常的長時間労働は管理職が労働をさせることにより生じている場合もあれば、放任や放置により生じている場合もあります。安全配慮義務が強調されたことで、現場の危険が見過ごされてしまったようにも思えます。

 このように適正な権限の行使が求められていたと理解すると、「配慮」という語が用いられていることが的確であったことに気づかされます。権限行使の場面であるから「配慮」なのです。法的にいえば、ここでの「配慮」は、権利濫用とならないことに近いのかもしれません。安全配慮義務などと婉曲にせず、「適正に権限を行使する」と直截に表現した方が、現場の管理職にはわかりやすいはずです。適正な権限行使のために、部下の労働時間を把握し、健康状態を把握します。「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」は、始業・終業時刻を確認し、記録する方法として、冒頭に「自ら現認すること」を挙げています。ICカード等の客観的記録は手段にしかすぎないのではないでしょうか。

 危険な仕事はさせないのではありません。危険な仕事もしなければならないときがあります。だからこそ、安全配慮義務が求められます。平成29年度に脳・心臓疾患で労災認定された労働者の約9割は40歳以上です。「業務上の指揮監督を行う権限を有する者」が自身の危険に注意すべき状況となっています。比較的若い年代がもっと働ける環境を検討する必要があるようにも思われます。

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丸尾 拓養(まるお ひろやす)
丸尾法律事務所 弁護士
東京大学卒業。第一東京弁護士会登録。

キーワード:経営、企画、人事、経理、営業、経営層、管理職、プレーヤー、働き方改革、マーケティング、人材、研修

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