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なぜ新規事業開発は失敗する? オムロンが出した答え 宮田喜一郎・オムロン代表取締役執行役員専務に聞く

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重視するのは、新しい事業を立ち上げる手法の確立

――現在、IXIやOSXには何人が所属していて、どれくらいのプロジェクトが進行しているのでしょうか。

 IXIには80人ほど、OSXには10人ほどのメンバーがいます。現在はテーマを集めることに注力しているのでこの人数で足りていますが、具体的なテーマを絞り込んだら、さらに40~50人は必要になりそうです。そのときは事業部門や本社部門、さらに外部の人間を雇うことでチームを編成する予定です。

 IXIで取り組んでいるプロジェクトは、まだ10件を少し超えた程度です。OSXでも10件程度の近未来デザインに取り組んでいます。とはいえ、すべてのプロジェクトがうまくいくとは考えていません。10件のうち1つでもうまくいけば上出来でしょう。

――そうすると、「ある程度、失敗してもいい」という人事評価にしないといけませんね。

 IXIやOSXの取り組みで重視しているのは、アウトプット(成果)ではありません。プロセスを含めて、「どうやって新しい事業を立ち上げる手法を確立するか」がポイントなのです。プロセスさえ確固たるものが完成すれば、いつかどこかで誰かが必ず結果を出してくれると信じています。

 もし、最初から「成果をこれだけ出せ」と目標を設定されたら、私は嫌ですね。そんなことは約束できないし、成果の数をそろえることは本質的な問題の解決にならないからです。重要なことは、技術経営の仕組みを確立し、それを使って次世代の人たちが100個の事業を200個に増やせるようにすることです。だから、IXIやOSXで働くメンバーに対しても、成果目標ではなく、仕組みの構築を評価軸に置いています。これを「状態目標」と呼んでいるのですが、具体的には「こういった状態にすれば成功」という目標を設定しています。

 成果にたどり着くプロセスの中で、どのようなアプローチをしたかで人事評価します。プロジェクトが成功したとしても、それが偶然の産物だったら評価は低くなるわけです。

――そうした人事評価は極めて難しいのではないでしょうか。

 もちろん、とても難しいですよ。だから、詳細な評価ガイドラインを新しく作成しました。そのガイドラインに基づいた評価を、3カ月に1度、IXIやOSXのメンバーにフィードバックしています。オムロングループでは初の試みです。

 IXIのメンバーは、2~3年でさまざまなプロジェクトで経験を積んだ後、元の部署に戻ってもらう予定です。過去の取り組みは新規事業を創出する新組織に人材を固定化したから失敗した。今回は、人材を鍛えて元の部署に戻すことで、グループ全体のイノベーション創出力を高めていきます。つまり、IXIは人材育成の場でもあるわけです。

――同じような技術経営や人事評価の仕組みを他社がまねすることは可能だと思いますか。

 役員同士、本音で議論ができていないとなかなか難しいでしょうね。従来の「新規事業を考える1つの事業部」という立て付けでは面白いことを考えている人や優秀な人を新しい取り組みに出しにくい。「どうしてお前のところに、優秀な人材を出さないといけないんだ」ということになるからです。IXIは本社組織ですから、事業部門が上げた収益で運営されています。究極には「うちから人材を出すんだから、本社部門に出す本社運営費用の金額を下げてくれ」という話になってしまうでしょう。私も事業部門を率いていたころは、実際にそういうことを言っていましたから。

 なぜ、今回のような取り組みが実現できたかといえば、それは、役員が健全な危機感を共有した上で徹底的に議論を重ね、お互いの目指すところを共有し、一枚岩になれているからです。そして、先ほど話したように、IXIやOSXを設立した目的の1つに人材育成があります。人を育てるということに立脚しているから、各部門長が許してくれているところも大きいと思います。

―― IXIやOSXが取り組むプロジェクトで、実際に製品化に近いものはあれば、教えてもらえますか。

 プロトタイピングまで持ち込んでいる案件は、いくつかあります。でも、内容や実現時期について、まだ具体的には言えません。「そんなことやっているのか」と、他の会社に分かってしまいしまいますからね(笑)。

宮田 喜一郎氏(みやた・きいちろう) オムロン代表取締役執行役員専務 CTO
1985年神戸大学工学部卒業、立石ライフサイエンス研究所(現オムロン ヘルスケア)入社。米国法人技術管理ディレクター、オムロン ヘルスケア商品事業統轄部長を経て、08年執行役員常務。10年オムロン ヘルスケア代表取締役社長就任。10年オムロン執行役員。12年同社執行役員常務。15年から同社CTO兼技術・知財本部長。17年同社執行役員専務。同年同社代表取締役。18年同社イノベーション推進本部長就任。

(聞き手は山下勝己・日経BP総研 未来ラボ 客員研究員)

キーワード:経営・企画、経営層、管理職、経営、技術、プレーヤー、イノベーション、AI、ICT

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