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採用内定の拘束力はどれくらいあるか 変化する法的性格とは 弁護士 丸尾拓養氏

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1、労働契約は採用内定で成立するか

 私人が契約を強制されることは原則としてありません。契約自由の原則があり、契約は当事者の申込と他方当事者の承諾で成立します。当事者の同意がないままに契約が成立したり、契約の内容が変更したりすることは原則としてありません。

 労働契約でも同様です。企業から見ても、また労働者から見ても、採用が強制されたり、就労が強制されたり、契約内容が一方的に変更されたりすることはありません。例外が認められるのは、法律がそれを許容した場合だけのはずです。

 採用と採用内定とは異なります。採用は労働契約の成立と効力発生であり、採用内定はその「内定」にとどまります。この採用に至る前の内定という契約締結過程は、労働契約締結前の事象であり、まだ労働契約が締結されていないことを前提に法的理解がなされます。

 しかしながら、日本における特に新規学卒者の採用過程では、採用内定がひとつの区切りとして大きな意味を持つことは、一種の事実的慣習でした。「採用内定」で多くは10月1日前後に内定式という儀式を行い、内定者が「採用内定承諾書」を提出し、当事者は内定契約関係に入ります。

 この採用内定により、内々定段階よりも、双方当事者は互いの拘束の度合いを強めることとなります。多くの会社が共通して採用内定を一定の時期に行うという事実が、この拘束を社会的規範にとどまらず、法的規範としても扱うという方向に働きます。それでも、労働契約の締結前の関係である点は残ります。

 「採用内定で労働契約が成立する」という説明がされることがありますが、これはミスリーディングでしょう。1979年(昭和54年)7月20日の最高裁判決は、次のように判示しました。

 「企業が大学の新規卒業者を採用するについて、早期に採用試験を実施して採用を 内定する、いわゆる採用内定の制度は、従来わが国において広く行われているところであるが、その実態は多様であるため、採用内定の法的性質について一義的に論断することは困難というべきである。したがって、具体的事案につき、採用内定の法的性質を判断するにあたっては、当該企業の当該年度における採用内定の事実関係に即してこれを検討する必要がある。」

 「その実態は多様である」、「一義的に論断することは困難というべきである」、「当該企業の当該年度における採用内定の事実関係に即して」という表現から、採用内定の法的性格は個別判断とならざるを得ないと判断していることがわかります。

 もっとも、続く一節では、「上告人(注:当該会社)における大学新規卒業新入社員の本採用社員としての身分取得の方法は、昭和44年度の前後を通じて、大体右のようなものであった。」と事実認定したうえで、次のように判示しました。

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