テクノロジーインパクト2030 Picks

マネーこそ技術の未来変える最強ゲームチェンジャー 本澤実・KEIRETSU JAPAN 最高顧問に聞く

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――テクノロジーそのものには興味があったのですか。

 テクノロジーへの投資に興味を持ったのは、もともと理系出身だったことも大きい。マネーの仕事をしながら、根本的なところではテクノロジーへの興味は持ち続けていました。特に、学生時代に専攻していた農業や食の分野です。もっと正確に言えば、農業の基本要素である空気と水と土。それぞれ環境、水や衛生、食につながるテクノロジーです。これらのテクノロジーの先には健康というテーマが出てきます。そうすると、医療や製薬のようなキーワードも関連してくる。

ライフやフード、新材料のテクノロジーに大波

――現在、どんなテクノロジー分野に注目していますか。

 テクノロジーには様々な分野がありますが、私自身はその全てに関わろうとは考えていません。やはり、人がいて社会が成り立ち、地球が成立しているわけですから、人ありきで人が幸せになるテクノロジーが最も大切だと考えています。KEIRETSUに参画してからは、KEIRETSUが以前から取り組んでいるテクノロジーがたくさんあるので、視野がとても広がりました。それでも、私の関心の根本は「人」という部分に変化はありません。

 ここにきてAI(人工知能)が大きな話題ですが、AI単体で考えるのではなく、何かと組み合わせることが重要になります。 AIはテクノロジーのベースになるような存在ですから。組み合わせが大事という観点では、IoTも同じです。組み合わせるテーマとしては、農業やフードサイエンス、ライフサイエンスが中核の中の中核でしょう。

――そう考える理由は。

 これまで食の分野では、農業に関する技術革命で食糧不足を乗り越えてきました。具体的には、1940~1960年代の「緑の革命」です。第2次世界大戦後の食糧不足という社会課題を「肥料」「農薬」「農業機械」「種」という4つのコア技術でクリアしました。

 その後、世界では、ローマクラブが1972年に発表した「成長の限界」で示されたように、人口増加による食糧難が大きな課題になると指摘されています。近年の地球温暖化による気候変動も、そうした流れを加速しています。一方で、緑の革命以降、農業では根本的な技術変化は起きていません。

 ところが近年、遺伝子関連技術の進化が著しい。私が大学で農業を学んでいた頃は想像もしなかった遺伝子の解明が進み、医学や農学に劇的な変化をもたらそうとしています。恐らく、今後、本質的なゲームチェンジを引き起こしていくはずです。その動きに食やライフサイエンスも連動していくでしょう。

――農業や医療と同様に、特にインパクトが大きそうなテクノロジーを紹介してもらえますか。

 新素材・新材料に関するテクノロジーでしょう。炭素繊維や有機材料、セラミック系など様々な素材の材料革命が、製造業の根本を変えると考えています。

 例えば、エジソンが電球を発明した際、最適なフィラメントの素材を探すために、約1600種類の物質について実験したと言われています。新しい素材を発見するために大量の試行錯誤を繰り返す状況は、つい最近まで続いていました。青色LEDの発明でレーベル物理学賞を受賞した天野浩氏もそうです。青色LEDを開発するために千数百回もの試行錯誤を繰り返した。それは「気合い(KIAI)だった」と彼は言っています。しかし、今後はそうではなく、気合いから「KI」を除いて「AI」を活用すべきと述べています。

―― 新材料開発にAIを適用するということですね。

 そうです。ノーベル物理学/化学賞だけを考えてみても、もう100年以上も続いているわけですから、テクノロジーに関する試行錯誤の蓄積は非常に大きいはずです。しかも、多くのことが既に完全かつ正確な方程式として解明されています。

 でも、これまでその知見の蓄積は統合されていませんでした。要するに、ビッグデータ化されていなかった。今、それが起ころうとしています。ビッグデータ化されたデータベースを駆使することで、実験すべき対象をある程度絞り込めるようになる。エジソンは1600回も実験する必要があったけれど、これからの研究者や技術者はもっと少ない試行で答えにたどり着けるようになるでしょう。新材料に関する知見がデータベースにどんどん登録されていけば、材料開発の概念が根本的に変わると思います。

 個別の新材料のことをすべて知らないとこうした議論ができないかといえば、そうではありません。むしろ、テクノロジーの専門家よりも、経済と技術の両方を経験して全体像を見られる人の方が得意だったりします。大企業の中にも、そういうヒントを生かせる人がいるはずです。もはや1つの技術だけでビジネスが成り立つことはありません。だから、広い視野を持ち、トータルでテクノロジーのインパクトを俯瞰してみることが大切な時代なのだと思います。

本澤 実氏(ほんざわ・みのる) KEIRETSU JAPAN 最高顧問/埼玉学園大学大学院客員教授
東京大学農学部卒、英国ケンブリッジ大学院、埼玉大学大学院修了、博士(経済学)。国内外の金融機関で国際金融取引に従事。その後日本政策投資銀行とともに投資会社を設立し、多くの企業再生・バイアウトに関与。現在は、スタートアップ支援などを通じて、先端技術の発掘・振興、事業化を通じた価値創造とグローバル展開の推進、これらを支える人材の育成や活用、並びに資金調達に尽力している。とくに最近は、人間の根本テーマに関連する先端技術の発掘に注力しており、関連技術を有する多くの中小企業を支援している。

(聞き手は山下勝己・日経BP総研 未来ラボ 客員研究員)

キーワード:経営・企画、経営層、管理職、経営、技術、プレーヤー、イノベーション、AI、ICT

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