日経ビジネススクール(日本経済新聞社、日経BP社)は、新事業や経営を担う次世代リーダー向けに、テクノロジーが引き起こす社会や産業の大変革を予測し、それを乗り切る羅針盤となる戦略を伝授する「テクノロジーインパクト2030 第3期」を10月29日に開講します。本稿では登壇する講師に、テクノロジーの進歩が近い将来に何を起こそうとしているのか、ビジネスにどのようなインパクトを与えるのかを聞きます。
起業家とエンジェルをつなぐKEIRETSU JAPAN
混迷を極める世界。未来は、視界良好とは言えない状況にある。その中で、企業が成長していくためには、溢れかえる情報の中から、確度の高いものを探し出し、そこに経営資源を集中させていく必要がある。今後生き残るためには、高度な情報収集能力、判断力、決断力などを兼ね備えることが求められる。
KEIRETSU JAPAN(ケイレツ・ジャパン)は、2000年に創設されたエンジェル投資家グループ「KEIRETSU FORUM」の日本支部だ。本澤実氏は日本支部の最高顧問を務める。ミッションは、国内のベンチャー起業家や経営者と、世界のエンジェル投資家をつなぐこと。そのためには、将来、どのような社会状況が訪れ、その際にどのようなテクノロジーが求められ、その結果どのような市場が醸成されるのかを高い精度で見通すことが求められる。
本澤氏に今回、エンジェルに関わる仕事を始めた理由、現在注目しているテクノロジー、今後の社会や市場の行方などについて聞いた。
英国でのビッグバン遭遇が転機に
――本澤さんが最高顧問を務めるKEIRETSU JAPANと、現在取り組んでいる業務について教えてください。
KEIRETSU FORUMは、1990年代に不動産投資業で成功を収めたCEO(最高経営責任者)のランディ・ウィリアムが2000年に立ち上げたエンジェル投資家のネットワークです。名称は日本語の「系列」に由来します。
投資家と起業家を結ぶコミュニティーとして、世界の26カ国から3300人を超えるエンジェル投資家が会員として参加し、テクノロジー、ヘルスケア/ライフサイエンス、エネルギー、消費財など様々な分野のスタートアップ企業に対する資金支援および事業支援活動を展開しています。2017年末から日本に拠点を構え、ケイレツ・ジャパンとして本格的に活動を開始しました。
まずは、私がこのエンジェルの仕事に携わることになった背景をお話ししたいと思います。そのためには後ほど述べる金融を巡る歴史を理解しておくことが重要ですが、ここでは現在の状況について述べます。
現在の日本にはお金があふれています。これは米国の金融政策の転換が始まった1980年代初めに比べると、あらゆる面で資金調達が容易になっていることを意味します。米国でエンジェル投資が本格的に始まったのも1980年代です。こうした状況にもかかわらず、日本のスタートアップの活動は、欧米に比べるとかなり遅れているのが現状です。
特に日本のスタートアップは日本国内に留まり、海外へ雄飛する企業が非常に少ないことに危機感を感じています。現在のように資金調達が容易な環境がいつまでも続くとは考えられないので、今のうちに日本のスタートアップの活動を活性化することのお役に立てればと考えたのです。人間は目の前のことに集中しがちなので、現在だけを見ていると本質的な部分を見失ってしまうケースが少なくありません。現在をよく理解するために、歴史的視点を常に持つことはとても重要だと思います。