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知っておきたい「ゲームを変える技術」 米国では産業強化の大元締め 生天目章・米国空軍科学技術局(アジア事務所)科学顧問に聞く

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 米国でも、それに近い状況はありました。特に、ベトナム戦争の後は、多くの大学で軍の関係者の出入りが大変な時期がありました。現在でも、ハーバード大学などは好意的ではないと聞きます。特に、社会科学系の学部が強い大学は難しいとも聞きます。また、DARPAは別格ですが、同じような基礎研究テーマで、全米科学財団(NSF)と軍の両方からオファーがあれば、NSFの方を選ぶ先生は多いと思います。

 一方、工学系の大学は違います。ハードルはありますが、話を聞いてもらえる大学は多い。米国の工学系の研究費用の約半分は、軍の基礎研究助成です。「どこから資金が出ていても、基礎研究である以上、結局は成果を民生分野と軍事分野の両方に応用できてしまう」。軍との関係を模索する中で、そういう結論に行き着いたということだと思います。

 DARPAや軍が大学に期待するのは基礎研究であり、その知的所有権は研究者、もしくは大学に帰属します。成果物は論文であって、それはどこに公開しても構いません。それに対して軍は一切関与しない。あくまで論文を成果物として、社会に広く還元することが目的です。基礎研究の定義は難しいですが、軍の関係者が大学に出入りするのが大変な時期に、「研究の成果は広く社会に公開する」と定義づけたことは意義深いものがあります。

 それとは別にDARPAや国防総省が運営資金を出して、大学内に設立した研究所もあります。例えば、マサチューセッツ工科大学(MIT)、カーネギーメロン大学、ペンシルバニア大学、ニューメキシコ大学などです。その研究所では、軍の特定の目的を指向した応用研究をしており、企業研究と同じように秘匿性が高く、工学系に多い留学生などが研究に従事することは制約されています。

――軍から研究予算が出ることに、米国国民から否定的な声はありませんか。

 もちろん、なかには不満の声はあります。AIの研究では、一流の科学者が軍主導のAI研究に警鐘を鳴らし、またグーグルが軍の研究に絡んだことに、同社の技術者が反対の声明を出しました。しかし、総論としてはそうした風潮の広まりは感じられません。米国のイノベーションの推進役としてDARPAのこれまでの実績、国防総省や軍が大変苦労して取り組んできたことを多くの国民が認めているということだと思います。

日本はものすごく信頼できる国

――ここまで日本の足りないところを指摘する話になってしまいましたが、日本の研究開発で優れた点をどう見ていますか。

 ものすごく信頼できることですね。約束したことはきちんと成し遂げます。ブレークスルー型研究を推進するための生態系はなくとも、一人ひとりが快適な社会生活を営むための生態系が社会全体にあります。分野によっては大きなブレークスルーを達成した研究者も少なくない。

 また、高い研究リーダーシップの下で大きく成長を遂げる潜在能力が高い研究者は、かなりたくさんいると思います。こうした優秀な研究者をうまく束ねるコンソーシアムを立ち上げ、チャンスを与えたり、彼らに高いレベルでの研究リーダーシップ獲得の機会や場を与えることが重要だと思います。

 ただ、1990年以降、政府主導で数々のコンソーシアムを立ち上げてきましたが、設立目的や研究目標が明確でなく、また研究上のリーダーシップ欠如のために、大きな実績を上げることなく終了してしまったケースが多いという失敗から、謙虚に学ぶ必要があると思います。

 今の日本では、20~30代で起業に関心を持つ人たちが、大学の先生を含めて増えています。これはとても大きな期待が持てる状況だと言えるでしょう。しかし、少ない人数で少ない予算ではブレークスルー型のイノベーションは起こせません。また、小さな問題の解決に多くの優秀な研究者が没頭して歳を重ねることは、日本にとって大きな損失です。

 優れた動機と勇気をもち、行動力のある若い研究者が多数集まり、もっと大きなテーマでチャレンジができる仕組みを用意して後押しすべきです。このためには、今までのように、政府主導で税金を使うという理由により日本だけで閉じたものではなく、研究のリーダシップを含めて本当の意味でのグローバルなコンソーシアムが必要だと思います。

生天目 章氏(なまため・あきら) 防衛大学校名誉教授/米国空軍科学技術局科学顧問
1950年福島生まれ。73年防衛大学校卒業。スタンフォード大学大学院修士課程(オペレーションズリサーチ)及び博士課程(システム経済工学)Ph.D取得。86年防衛大学校応用物理学科講師。96年同大学校情報工学科教授。2016年に退官し、同年から現職。著書に『ゲーム理論と進化ダイナミクス』(森北出版)、『戦略的意思決定』(朝倉書店)、『社会システム』『うそつきは得をするのか』(ソフトバンククリエイティブ)、『Agent based modeling and Network Dynamics』(Oxford University Press)など。

(聞き手は山下勝己・日経BP総研 未来ラボ 客員研究員)

キーワード:経営・企画、経営層、管理職、経営、技術、プレーヤー、イノベーション、AI、ICT

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