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知っておきたい「ゲームを変える技術」 米国では産業強化の大元締め 生天目章・米国空軍科学技術局(アジア事務所)科学顧問に聞く

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――日本では超LSI技術研究組合の成功の後、半導体関連の大型国家プロジェクトは失敗が多いとの声をよく耳にします。一方、米国ではSEMATECHもそうですが、成功例が多い。その理由は何だと思いますか。

 理由はいくつかあると思いますが、一つは大きなビジョンの下で状況に応じて研究開発の目標を変えていくことにあります。研究の特徴は、目標が絶えず変化する、いわば「ムービング・ターゲット」だと思います。特に、ブレークスルー型研究になると、研究が進捗するたびに研究目標を適時定めながら進めるアジリティーが必要です。先ほどのERIを例にとると、「ムーアの法則の最後の詰めに取り組み、半導体において世界的な技術優勢性を維持する」というスローガンを掲げ、その下にいくつかの具体的な研究テーマを置いています。このビジョンの下で、研究の進捗具合に合わせて何が必要かを考え、研究内容を最適化していくプロセスをとります。

 日本での大型研究開発プロジェクトは、大きなビジョンが描かれることはなく、具体的な研究テーマを練りに練って作成し、それを達成することを固定的な目標にしてしまう。大きなビジョンがないため、研究の進捗によっては、その目標が実現できそうにないとき、当初の目標がどこかで都合の良い形にすり替わってしまうことが多いんですね。

 もちろん、米国のように大雑把なビジョンだけで、大きな研究チームを束ねるのは結構大変です。プロジェクトマネジャーのリーダーシップが重要になります。日本の国家プロジェクトは、その分野の著名な研究者をプロジェクトマネジャーに据えることが多いですが、その研究者が必ずしも研究全体を推進するリーダーシップを持ち合わせているとは限りません。また、リーダーシップとは組織上の管理者とは異なる概念で、高いビジョンの下、その研究に参加する一人ひとりが主体的に活動する力とも言えます。

 米国ではそのようなリーダーシップを持つ人が偏在し、大きな研究目標の下、自分の研究をうまくデザインできるのだと思います。そのような中から、DARPAのプロジェクトマネジャーをうまくリクルートしてくる仕組みができているという点が、日本とは違います。

現在のAIブームの先を見据える

――国防総省傘下のDARPAには軍事技術のイメージを持っていましたが、これまでの話を聞くとだいぶ印象が違いますね。

 半導体をはじめ、優れた民生技術は軍事用途でも採用されます。国防総省にとって、米国の技術優位性を維持することは最優先事項で、それを実現できれば軍事的な恩恵を十分に受けられる。すなわち軍事的優位性が確保できるわけです。また、世界で最も優れた兵器を造れる米国産業を維持し、技術の進歩に合わせて産業の生態系を新陳代謝させていくことは、国防総省だけでなく米国全体にとって利益になると考える人は圧倒的に多いと思います。

 とても分かりやすい例はAIです。現在、AIは世界的なブームになっており、世界中の国々が研究開発で競い合っています。DARPAも以前からAIに注目し、第1次AIブームの火付け役になりました。今のAIブームを彼らは第2次AIブームと位置づけています。具体的には、ディープラーニング技術を適用したAIです。ディープラーニングは3~4年前から世界的に広まりましたが、実はDARPAがだいぶ前に一役買っています。2004年頃にディープラーニング技術を使った小型ロボットの自走行研究を手掛け、ディープラーニング技術の可能性を明らかにしました。

 AIの専門家の間では現在のブームを第3次AIブームと位置づける人が多いようですが、DARPAではまだ第2次AIブームのままです。確かに、フェイスブックやグーグルといった米国のIT企業による投資で技術レベルはものすごく高くなりました。しかし、AIの研究をずっと見てきた国防総省やDARPAは、その進化のスピードに不満を感じているようです。つい先月(2018年8月)、DARPAは「本当の第3次AIブームをつくる」という目標を掲げ、新しい研究プログラム「Artificial Intelligence Exploration」をスタートさせました。

――第2次と第3次のAIブームの根本的な違いは何でしょうか。

 DARPAは現在のAIがあくまで人間にとってのツールであり、パートナーではないと評価しています。パートナーとは、具体的には、様々な文脈で応用動作が可能で、自分の動作について説明ができ、また常識を理解して判断できるようなAIです。そのために2000億円規模の研究投資を決めました。

 話を軍事利用に戻すと、DARPAはAIの軍事利用を直接的に考えているのではなく、現在のAI研究の方向性がちょっと変だと指摘しているのです。今のままだと第2次AIブームの延長でしかなく、本当の意味での人間のパートナーにはなり得ないということです。国防総省では、だいぶ以前から、科学技術の重要な戦略として、システムのオートノミー(自律性)を掲げています。もし、人間のパートナーとなるAIを開発できれば、その研究成果は当然、軍としてもメリットがあります。例えば、大型機に乗務する複数のパイロットの1人をロボットと置換する。実際、この研究は現在進められています。

 ただ、人間のパートナーとなるAIを開発するための構想は、もっと裾野が広く、そのための技術を育てて使えるようにすること。そして、今までのAI研究のように、ソフトウエア中心の研究だけでなく、半導体技術や脳型チップなどのデバイス技術、認知科学なども研究し、それらの要素技術を束ねて、人間のパートナーとなるAIを開発する。それが実用化段階に達したら、軍としても利用するというスタンスです。

――日本では、多くの大学で軍事研究が忌避されています。米国の事情はいかがでしょうか。

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