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知っておきたい「ゲームを変える技術」 米国では産業強化の大元締め 生天目章・米国空軍科学技術局(アジア事務所)科学顧問に聞く

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 こうした米国と日本のブレークスルー型研究に対する取り組みの違いを分析すると、必ず登場するのは「国防高等研究計画局(DARPA)」です。

――研究開発の「生態系」の中でDARPAはどのような役割を果たして、どのような研究テーマに取り組んでいるのでしょうか。

 米国政府の研究開発予算は約1400億ドル(約15兆円)で、その半分を国防総省が担っています。そのすべてがDARPAの予算ではありませんが、DARPAはブレークスルー型研究を見定め、研究シナリオをまとめる大元締めを担い、研究開発費を基に研究開発の生態系をつくり、事業化までのつなぎ役を果たしています。DARPA設立のきっかけは、「スプートニック・ショック」です。1957年にソビエト連邦(ソ連)が人類初の人工衛星「スプートニック1号」の打ち上げに成功しました。これに米国は大きな衝撃を受けましたが、ソ連に対する宇宙分野での科学技術力の劣勢を挽回するため、DARPAを設立しました。ただし、打ち上げ直後に米国の科学者が集められ、2日後には衛星の弾道予測に成功したとのことですので、以前から米国には研究開発の生態系が立ち上がる素地はあるのでしょう。

 現在、DARPAでは、6つの広い研究領域があり、医療や健康に関わる領域もあります。研究プロジェクトの数は年間に150件程度で、基礎研究もあれば、2~3年後に事業化につながる迅速な開発プロジェクトもあります。研究期間は3年程度です。

――様々なテーマの研究開発を進める体制は。

 DARPA主導の下で、大学の先生や、大手企業およびベンチャー企業の研究者などで構成されたコミュニティーをつくり、その中で研究の方向性を議論します。その回答を参考にして、DARPAのプログラムマネジャーが方向性を決め、研究シナリオを作るわけです。DARPAは国防総省の機関ですが、政府や軍から独立した権限を持っていて、ブレークスルー型研究のテーマの絞り込みや研究の進め方などを独自に判断して進めます。

 日本では、国の研究開発のテーマや方向性を大学の先生、国の研究機関や大手企業の研究者などの有識者が決めます。いわゆる委員会方式です。そして、事務局の作ったシナリオが用意されていることがほとんどです。そのシナリオに沿ってやり取りが進み、最終的には全員賛成という形で決定されます。

 DARPAは決して、そうした形式をとりません。政府が定める大きな科学技術政策の範疇にはないテーマであっても(ブレークスルー型研究には、このようなケースが多い)、プログラムマネジャーが先導して賛同者を集めてコミュニティーをつくり、周囲のコンセンサスを取りながら、研究テーマを引っ張っていきます。これは、大学の先生が自分の研究室の方向性を学生に示すのにかなり近い。テーマの困難性とコミュニティーの規模は、格段に違いますが。ハイリスクそしてインパクトの大きいブレークスルー型研究になればなるほど、主観的な判断が随所に必要です。DARPAには、その権限が与えられているわけです。

――テーマを決めるときに国や省の上層部から圧力は受けないのですか。

 もちろん、米国政府の科学技術委員会には科学顧問団が存在し、その人たちがまとめたレポートなどを参考にします。しかし、最終的な判断を下すのは、DARPAのプログラムマネジャーとリーダーです。例えば、DARPAでは2017年に「エレクトロニクス復興イニシアチブ(ERI:Electronics Resurgence Initiative)」という半導体分野の研究開発プログラムをスタートしました。担当する部門には5~6人のプログラムマネジャーがいます。そのうち3~4人は、米インテルなどの大手半導体メーカーで経験を積み、「企業の現場で何が起きているか」を把握している人たちです。

米国の産業力を維持・強化する

――DARPAが研究開発の資金を出す対象や方法は。

 大きく2つの方法があります。1つは、大学やベンチャー企業に研究資金を直接出す方法です。特定の研究目標のために、研究開発を仕上げることが必要なときに効果を発揮します。

 もう1つは、大学や企業の研究開発の新しい方向性を導くためのイニシアチブを立ち上げることです。日本で1975年に始まった「超LSI技術研究組合」に近いですね。一説には、これをまねたとも言われています。イニシアチブには、DARPAも研究資金を出しますが、民間企業からも資金を募り、コスト分担の研究コンソーシアムをつくることで非常に大きなアンブレラを構築し、非常に強く根ざした既存の研究の軸が新しい方向に向かうためのベクトルをつくる力を生み出します。

 日本に超LSI技術研究組合ができたとき、米国ではDARPAが中心となって「SEMATECH」を立ち上げました。SEMATECHは現在も民間組織として続いていますが、いわばリニューアルしたものが前述のERIです。2000年頃から半導体業界では、「ムーアの法則が限界に近づいている」と指摘されていますが、技術革新は続いています。そして、「モア・ムーア(More Moore)」 をスローガンに、その限界にいち早く到達しようというのが、新しいイニシアチブの目標です。実際に、ERIの下では、「モア・ムーア」と「モア・ザン・ムーア(More than Moore)」の2つの側面からものすごくチャレンジングな研究テーマに取り組んでいます。

――ここにきて、半導体分野の研究開発を加速させるイニシアチブを立ち上げた理由は何ですか。

 いろいろな産業がありますが、何だかんだ言っても、米国で半導体は儲けており、基幹産業の1つです。今や半導体はあらゆるものに浸透していて、半導体メーカーは大きな利益を挙げています。現在、世界の半導体は約50兆円の市場ですが、約半分は米国メーカーが稼いでいます。

 だから、この基幹産業をどうやって維持し、将来発展させていくかが重要になります。また、半導体は、安全保障上、最も重要な基盤技術です。半導体に代わる量子デバイスなども芽が出つつありますが、実際に置き換わるまではまだまだ相当な時間が掛かります。しばらくはシリコン(Si)に基づく半導体の時代が続くでしょう。その時代の覇権を米国が握り続けるには、半導体分野でのブレークスルー型研究が再び必要なわけです。半導体と並行して光技術も重視していて、「AMI(American Manufacturing Initiative)」と呼ぶイニシアチブを立ち上げて、光電子デバイス、そして電子技術を光技術で置き換えるための研究開発にも並行して取り組んでいます。

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