現場発で考える新しい働き方

テレワーク、機能させるには3つの課題がある 弁護士 丸尾拓養氏

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 判決文中でこれに続いた「当該行為に要した時間は、それが社会通念上必要と認められるものである限り、労働基準法上の労働時間に該当すると解される」という一節が意味を持ち始めるのかもしれません。また、「使用者の指揮命令『下』に置かれた」という一節も、新しい意味を持ち始めるかもしれません。

 学生時代を通じて、自宅で1日8時間にわたり勉強「し続けた」と誇れる人は多くはないでしょう。それを毎日なんて、通常は不可能に近いでしょう。事業場内労働での労働時間は、事業場内に「いた」ことが、「使用者の指揮命令下に置かれた」ものと評価されたのかもしれません。

 確かに、事業場内で所定の始業から終業時刻までの間のタバコを吸う、移動するなどの「業務」自体以外の時間について「労働時間」性が争われることは多くありません。しかし、事業場内に拘束していたことに対する対価が賃金であるというのは、そもそも成果に対する賃金という近時の考え方とは相容れません。

 それを補うものが、正社員という入社でのスクリーニングによる質の確保であったとすれば、それは近時の「不合理な労働条件の禁止」や「差別的取扱いの禁止」で否定されてしまうのでしょうか。それとも、使用者が当該労働者の所属する集団に長期就労を期待するので、寛容な管理をするのであれば、その優遇は「不合理な労働条件」とはされないのでしょうか。

 労働力不足の現状では、テレワークをアピールすることは、採用やリテンション策において、会社に利益があるのでしょう。これまでの就業規則が、一時的・臨時的な扱い、原則を踏まえたうえでの例外的な扱いをまったく許容しないと理解すれば、テレワークを制度化することも意義があるのでしょう。

 しかし、おそらく、これまでの就業規則はそこまで硬直的なものではないはずです。現場の管理職が上手にやれば足りたし、それくらいの権限は委ねられていたはずです。

 台風や地震や鉄道事故の際の対応の延長線上で、とらえることもできるでしょう。それ以上にテレワークを労働者の権利として構成するとき、問題言動のある社員の事案や適応障害の事案などで、労使紛争はさらに複雑化することにならないでしょうか。

 労務提供を事業場内で行うこと、労働時間を現認で把握すること、労働時間中は職務専念義務を課され、その余は労働から解放されるという原則は、労働契約において重要であるとも思われます。そして、労働契約の基本にある労使間の信頼関係が、テレワークという現認できない業務遂行において基盤となっているように思われます。

 制度を作ることも大事ですが、制度がなければ実現できないというのは、制度に過度に依拠しているからかもしれません。明確な原則があるところに、制度は存在するはずです。新しい制度を作ることは、多様性・柔軟性と整合しない面もでてきます。

 流行りにとらわれず、労働契約という基本からクレバーに仕組みをつくることが、労使双方の長期的な利益のために求められているのでしょう。労使間の信頼関係に基づき、そして信頼関係が崩れたときにも対応できることが適切です。

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働き方不良社員への対応と法的実務 2018年12月13日 (木)
丸尾 拓養(まるお ひろやす)
丸尾法律事務所 弁護士
東京大学卒業。第一東京弁護士会登録。

キーワード:経営、企画、人事、経理、営業、経営層、管理職、プレーヤー、働き方改革、マーケティング、人材、研修

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