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テレワーク、機能させるには3つの課題がある 弁護士 丸尾拓養氏

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テレワークを労働契約上ではどう構成するのか

 テレワークについての規程例が人事労務の雑誌などで掲載されています。従来の就業規則の部分的縫合やマニュアル思考のものが多く、テレワークの問題点や課題を正面から考慮したものは多くありません。「経営主体が一方的に作成し、かつ、これを変更することができる」就業規則は、テレワークの運用に支障が生じたときに機能できなければならないはずです。

 労働契約の内容となる就業規則は、労働者の権利義務を規定するものであり、これに対応する使用者の義務権利を規定するものです。テレワークについて、「労働者はテレワークをできる」のように労働者の権利として規定することもできますし、「会社は労働者に対し事業場外での労働を命じることができる」と使用者の権利として規定することもできます。

 労働者の権利であれば、会社にとっては義務となり、テレワークを制限する場合は、労働者の権利が制限されることになります。使用者の命令であれば、労働者にとって義務となり、「テレワークをさせろ」と請求することはできなくなります。

 規程例の中には、「労働者がテレワークを申請し、会社がこれを認める」のように、マニュアルとして規定するものがあります。これは、上記の権利義務という意識が弱い規定の仕方でしょう。テレワークの運用がうまくいっている場合はいいですが、これは就業規則が機能する場面ではありません。

 運用で支障が生じた場合に、機能できることが重要です。申請理由を細部にわたって記載し、会社が認めるか否かの基準を明示してマニュアル化をさらに進めることは、これとは逆のベクトルとなります。実際のトラブルは、これらのマニュアルを超えたところで生じます。マニュアル化がかえってトラブルや悪用を招くこともあります。

 テレワークを使用者の命令として構成するとしても、実務では個別の命令がなされることが必須となるものではありません。これは時間外・休日労働の現状と同様です。

 労働時間は「使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができる」かが重視されるので、割増賃金請求に関する判決においても、「黙示の残業命令」があったかが問われます。しかし、実際には、労働者が上司に黙って残業をして、その後に申告して、それを上司が承認するのが通例です。

 自己申告はこの実態に親和性を有します。それでも「命令」であると、法的には構成するのです。しかし、労働者が自由に時間外・休日労働をできるという時代は終わり、今後は使用者と労働者の双方が労働時間の、そして労働の管理を行う時代に入っていくことでしょう。使用者による「命令」という面が強くなるのかもしれません。

 この労働時間管理のリスクの再配分が求められる状況において、「テレワーク」という語感だけで、それが労働者にとって全面的に利益があるものとして過度に積極的に導入することには慎重になるべきでしょう。

 テレワークにより労働者が失うものがあり、使用者が失うものがあります。これが双方にとって、また、変わりつつも基本にある長期雇用システムにとって、過大な負担とならないためにも、テレワークの運用がうまくいくように法的に構成し、柔軟に対応できる規程を整えることが重要です。

テレワークの弊害は何か

 情報通信技術の発達により、既に、持ち帰り残業や休日労働の問題が生じています。情報漏えいを防止するためにクラウド技術を導入した会社では、自宅に帰宅後にアクセスして仕事をする例がみられます。会社が求めていなくても、労働者がアクセスしてしまいます。メールのチェックを帰宅時、就寝時、起床時にする習慣を有する人もいるでしょう。ときにはビールを飲みながら、テレビを見ながら、メールに軽く対応する人もいるでしょう。

 これが「労働時間」として賃金に値するのか、または「業務」として労災補償や安全配慮義務違反の対象となるのか、個別の判断とならざるを得ないのでしょうが、新しい判断基準が策定可能とも思えません。「労働時間」論は新しい段階に入りつつあります。

 「仕事と家庭の両立」を提唱しつつも、家庭に仕事が侵入している面もあります。休日には「労働からの解放」が暦日で確保されていなければならないはずです。会社が命令していないから、会社が禁止しているからといって、当然に労働時間ではないというのは、やや乱暴な理屈かもしれません。

 「労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない」というドグマを形式的に徹底することはやや困難となっているのでしょう。

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