未来の働き方を大予測

ベーシックインカムでは「日本は幸せになれない」 雇用ジャーナリスト 海老原 嗣生

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

 この額のBIを国民1億2,672万人に給付すると、年間197兆6,832億円かかることになる。これでようやく「生活保護費並みの生活」ができるが、原田氏流の「給与原資から一律天引き」する形の所得税でこれをかき集めるとすると、なんと80%近い税率となる。とてつもなく大きな国民負担だろう。

 「いや、等価所得法を用いて世帯人数により支給額を調整すれば、ここまで費用はかからない」と、多少この領域に詳しい人からは反論が起こるかもしれないので、そのことにも触れておく。等価所得とは、世帯構成員が増えると、一人当たりの生計費は減っていくという経験則を元にした考え方だ。

等価所得法を用いるなら膨大な作業が発生

 たとえば冷蔵庫や洗濯機などの家電を考えた場合、世帯構成員が増えても、必要数は変わらない場合が多い。食材もスケールメリットが高まるため4人世帯が単身世帯の4倍もかかりはしない。

 こうしたことから、人数が増えても、必要となる生計費はそれほど増えないと考える。ちなみに、OECDをはじめ、日本の『所得再分配調査』で使われている「等価所得」の計算式は、「人数の平方根倍」となる。

 たとえば、単身世帯の生計費を1とすると、二人世帯のそれは1.41倍(2の平方根)、3人世帯は1.73倍(3の平方根)、4人世帯は2倍(4の平方根)となる。この数式を使って、世帯構成によりBI支給額を調整すれば、その総額は130兆円まで抑えられる。これでようやく、一律50%の所得税となる。ただ、それでも額は十分大きな国民負担だ。

 いやちょっと待ってほしい。この等価所得法を用いるならば、世帯構成員をしっかり把握しなければならない。それは、各家庭ごとに独立・出産・死亡・離別などがあり毎年変わる。こうしたものを、全世帯くまなく毎年チェックしてBI額を調整するというのは「とてつもない膨大な手間」となり行政のスリム化など程遠い。とすると、調整型のBIなどというものはそもそも本旨から外れているのでありえないということになる。そこまで手間がかかって、なおかつ、所得税率50%……。考えるだに、あほらしくなるだろう。

 ここまでで、原田型BIの問題点を整理すると以下のようになる。

(1)7万円という中途半端な額では、生保・年金・失業給付などの行政サービスはほぼスリム化できない。
(2)行政サービスをスリム化できるほどのBI額(月額13万円)では、所得税率80%にもなるため、負担感が大きすぎる。

 とどのつまり、中途半端なこけおどしでしかない。それがまず一つ目の結論となる。

海老原 嗣生(えびはら・つぐお)
1964年、東京生まれ。大手メーカーを経て、リクルートエイブリック(現リクルートエージェント)入社。新規事業の企画・推進、人事制度設計等に携わる。 その後、リクルートワークス研究所にて雑誌Works編集長。2008年にHRコンサルティング会社ニッチモを立ち上げる。雇用・キャリア・人事関連の書籍を30冊以上上梓し、「雇用のカリスマ」と呼ばれている。近著は『「AIで仕事がなくなる論」のウソ』(イースト・プレス)。

キーワード:経営、企画、人事、経理、営業、技術、製造、学生、経営層、管理職、プレーヤー、働き方改革、マーケティング、人材、研修

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。