未来の働き方を大予測

ベーシックインカムが現実的でない2つの根拠 雇用ジャーナリスト 海老原 嗣生

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 たとえば、多くのBI論者は、「生活保護が肥大している」「こうした行政サービスが削減できる」と粗い論議をする。がこれは間違いだ。生活保護はあらゆる給付を含めても4兆円しかなく、しかもそのうち半分以上が医療費であり、生計費関連は1.6兆円程度と桁違いに小さい。96兆円規模のBI導入で代替できるのはたったこれだけなのだ。

 対して原田氏は書中でBIで代替できる生活保護の規模を1.9兆円(これには、葬儀関連などの生計費以外が含まれているため若干数字は大きいが)と見積もり、ことさら大きくその意義を強調などしていない。

 こんな感じで数字の裏付けをきっちりとっているところが、他のBI論者とは明らかに一線を画す。

労働忌避も避けられる?

 一方で、「お金を配ることによって、働かない人が現れるのではないか」というBIへの根本的な批判に対しても、氏が主張する「所得税率30%」方式で対応が可能、と反論する。いわく、現行の生活保護方式であれば、所得の増加に対して生保の支給停止が起きる。いわば、労働所得に対して100%の徴税と同じ状況なのだが、原田方式なら3割しか徴税されなず、7割が所得として手元に残る。だから、この方式の方が現行よりもアクティベーション(労働誘導)に優れている、という。

 そして、働かなくてもお金をもらえることによる「労働離れ」の危惧に対しては、税率と労働時間の弾性値から計算して、社会に大きなインパクトを与えるほどの労働時間減少は起きない、という試算も示している。

 ここまで論理と数字で攻められると、原田=フリードマン型BIは完璧で隙が無いものに見えてしまうだろう。さて、それが本当に問題がないのか否かを考える前に、そもそも原田氏やフリードマンはなぜ、こんな形のBI制度を主張するのか、その背景に触れておきたい。

背景には、市場の機能を高めるべきとの考え方

 原田氏もフリードマンも、経済学の世界では「シカゴ学派」と目される人たちだ。彼らシカゴ学派の考え方を単純化して示すならば、「経済活動は市場に任せるべき」というものになる。余計なことを政府がするから経済の活性化が削がれるのであり、政府は規制緩和を進め、市場の機能を高めることに専念すべし、という。

 だから、新市場主義もしくは市場万能主義とも呼ばれる(なみに、シカゴ学派の考え方をライフスタイルにまで組み込んだ人たちを俗にリバタリアンという)。

 当然、シカゴ学派は、細々としたミクロ経済政策を嫌う。そうした施策を張り巡らせることで、たとえば利権や無駄が発生し、それが市場機能を弱め、富の偏在を生む原因になる。だから政策とは、ミクロではなくマクロで行うべきだ、と考える。

 書中で原田氏は大規模なバラマキこそマクロ政策の本意とし、「広く薄く配るのがバラマキ」を推奨している。対して、個別的に大金を投入する裁量行政を最悪視し、その例として農業振興を上げている。いわく、様々な農業振興策として2.3兆円を積み上げ、それでも国際価格と比して1.8兆円も高い農産物を国民は購入させられ、それでいて農業総生産は4.9兆円にしかなっていない。

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