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ベーシックインカムが「日本社会の救世主になる」論は本当か 雇用ジャーナリスト 海老原 嗣生

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国が生計費を補填すると、労働者の賃金が下がった

 現代社会には、人の代わりに働いてくれるアンドロイドはいない。こんな状態でBIを給付すれば、いくら不要な行政サービスをカットしても、財源不足は否めず、結果、猛烈な増税を強いなければならないと、直観的に感じたからだ。

 こうした「財源はどうするのだ?」を詳細に検証する前に、まずはBI(的なもの)の歴史について、ざっと振り返ることにしよう。その結果、なぜ近年、BIに関して推進論者が増えてきたのか、も理解できることになる。

 生活を営むのに必要な額の基礎的な生計費を、国民全員に与えるという政策の歴史は長い。その源流は、17世紀にイギリスで成立したエリザベス救貧法に行きつく。同法は生活保護をより広くより簡便に支給することを目的とした。その後、同法の系譜の中でスピーナム・ランド法が生まれる。これは、標準的な報酬を得られない人に収入の欠損分を行政が補填するという制度で、後述する「負の所得税」に近い内容となっている。

 ただし、資本家が圧倒的に強かった当時の社会情勢下では、国が労働者の生計費を補填すると、企業は彼らの賃金をどんどん下げるという悪循環が起きた。その結果、補填額は増え、国の財政はひっ迫し、この制度は早晩、破たんしていく。

「負の所得税」が魔法の杖になるとの議論

 その後、19世紀になると、救貧・防貧ではなく、新しい社会構造を模索するという意味で、フランスのフーリエやオーエンに代表される空想社会主義者や、イギリスのジョン・スチアート・ミルのような功利主義学者が独自の制度を提唱するが、こちらも結実はしていない。

 曲折をつづけていたBIに急展開をもたらしたのが、ミルトン・フリードマンだ。彼はBIに対して、「負の所得税」という新たな概念を持ち込んだ。所得税とはご存知の通り、人々の所得に応じて徴収する税金のことをいうが、現状ではその徴収額の最低が「0」である。それを、ある年収以下の人は税額がマイナスとなり、逆にお金がもらえるようにする、というのが「負の所得税」だ。

 この説明を聞くと、一見、「ある収入以下の人にのみ、BIが支給される」ように聞こえてしまうので、もう少し説明することにしておこう。

 フリードマン方式では、実は国民全員にBIが支給される、同時に、所得税も一円でも収入があれば課される。その結果、収入が上がってくるとBIの支給額を所得税額が上回るようになる。だから、見かけ上は、それ以上の年収の人が純粋に税負担をしていることになるのだ。

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