ソーシャルメディア四半世紀

偽ニュースを楽しむ人たち メディア利用の格差がもたらす未来とは 東京経済大学教授 佐々木裕一

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 最後に1点つけ加えれば、アーキテクチャ・リテラシーも内包するタイプのメディア・リテラシーに欠け、これまでに示したような問題の所在に気づいていない大人、あるいはスマートフォンの持つ端末特性や自分のメディア利用の課題を何となく感じながらも自身の行動を変えることのできない大人が、スマートフォン+SNS/メッセージングアプリの便利さと楽しさ、そしてマーケティングの巧みさによって、低年齢の子どもにスマートフォン利用を「結果的に」許容していることも、より長い時間で見た格差の固定化という側面から無視できない課題である。

 メディア利用の巧拙がもたらす大人のみならず10代といった若い世代における機会格差は、時間とともに経済格差として表れる。2016年の小学生高学年(10~12歳)でのスマートフォンでのインターネット利用率は22%なので(内閣府, 2017)、この層がさらには小学生低学年へと広がり、大人が使うタイプのスマートフォンが3年から5年という短い期間で浸透していく可能性はマーケティングの論理からは十分に考えられる。ちなみにこの先10年の間に7~12歳という年齢に該当する子どもの数は約1640万人に上る。

 このようにSNSを中心にアルゴリズムの導入が進み、その改善がけっして速いものではないと考えるならば、「ネットワーク化された個人主義」の時代に対応できる者とそうでない者との機会格差と経済的格差は広がっていく可能性は高いと結論づけられる。インターネットが私たちからの入力を活用できる双方向性を持つがゆえに、SNSに代表されるメディア/サービス利用の巧拙が格差の規定要因としての存在感を高めるのである。

長期的視点の理論が持つ盲点

 さて、ここまで「今後15年前後」に起きるであろう格差の拡大について述べてきたが、ここで一度、それよりもはるかに長いレンジで2100年のことを想像してみよう。

 哲学者のクラークは、その著書『生まれながらのサイボーグ』(2003 = 2015)において、人間は生まれながらにサイボーグであって、文字、言語、そしてさまざまな技術を取り込むことで進化してきたと述べた。つまりこれらはいずれも私たちの知性の一部になってきたという主張である。この論に依拠すれば、2100年の人類は現在の人類とは異なっており、スマートフォンとその小さな画面上で作動するアプリケーションはもちろん、後続の技術に対しても人間はその可塑性を活かして順応し、十二分に使いこなすことになる。

 たしかに過去の事実を鑑みればクラークの議論には説得力がある。しかし、20数年というミドルレンジでユーザーサイトとソーシャルメディア、そしてそれらと利用者の相互作用を原則的に社会構成主義の立場で、かつアーキテクチャの力とそれが持つ双方向性に注視しながら追ってきた筆者には、彼の理論は次のように映る。

 すなわち、経済学者のピケティが『21世紀の資本』(2013 = 2014)において、200年以上の定量データ分析から経済的格差がなくならないのは賃金の成長率が経済全体の成長率 (g)とほぼ一致しているのに対し資本収益率( r)が経済全体の成長率 (g) よりも大きいからである、と結論した理論と悪い意味で同じである、と。言わんとすることは、優れた理論であっても捕らえきれないミクロな現場での短い期間での曲折がある、ということだ。それは美しい理論に潜みがちな盲点でもある。ビジネスの現場で有効な想像力は利用者に理解可能な短期的なものになりがちだし、ひとたび決まったビジネスの形による経路依存性もことのほか大きいのだ。

 たしかに文字も言語も私たちの脳や心に働きかける技術ないしはメディアであった。そしてクラーク(2003 = 2015)のような長期的視点に立てば、アルゴリズムが、その他の技術革新が、あるいは人間の可塑性がこれまでと同じように人間と技術の関係性を正していくのかもしれないし、そう期待したい。けれどもこれまでの技術ないしメディアは私たちの直感や情動に偏った入力を次の出力に反映させるものではなかったし、2013年以降の5年ほどの情報環境においてもたらされたことが、次のようなことであったとすれば、楽観主義に任せて悠長に考えていることはできない。

 すなわち、「面白さ」の追求によるアテンション獲得、それゆえの娯楽情報偏重、フェイクニュースとアドフラウド(広告詐欺)の増加、情報流通の分極化とそれに付随する排他主義、情報過多にインタラクション過多といった心理的負担、そして、私たちの「何もしていない時間」の喪失である。

佐々木裕一著『ソーシャルメディア四半世紀』(日本経済新聞出版社、2018年)「第16章 メディア利用がもたらす格差の拡大」から
佐々木 裕一(ささき・ゆういち)
1968年生まれ。1992年一橋大学社会学部卒業。学部時代にフランス高等商業学院 (HEC) に給費留学。2009年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程修了。電通での消費財マーケティング・コミュニケーション戦略立案、アーサー・D・リトル・ジャパンとNTTデータ経営研究所での製造業・情報サービス業の全社戦略策定、スタートアップ企業への投資などの業務を経験し、大学教員に。2011年~2013年カリフォルニア大学サンディエゴ校訪問研究員。現在、東京経済大学コミュニケーション学部教授。


キーワード:経営・企画、経営層、管理職、経営、技術、製造、プレーヤー、イノベーション、フィンテック、AI、ICT

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