ソーシャルメディア四半世紀

偽ニュースを楽しむ人たち メディア利用の格差がもたらす未来とは 東京経済大学教授 佐々木裕一

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 注意深い読者は「文脈の共有されにくい」という箇所にひっかかるかもしれない。「私は家族や親しい友人と文脈を共有しているから、短いテキスト(とスタンプ)でも十分に意思疎通ができている」という意見である。その意見は間違いとは言い切れないが、それに対してはこう問いたい。「対面コミュニケーションにおいてさえ相互理解は容易ではないのに、短いテキストでどれだけ文脈を共有できているのだろうか」「それなりに親しい相手でも自分の送った短いメッセージが相手にどのように解釈されているかが気になり、何度もそのアプリを見てしまっていないだろうか」と。そしてもし仮に何度もそのアプリを見てしまっているとすれば、それは単位時間あたりのデバイス接触回数の増加というところへも接続されるのである。

 つまりこのような心理的負担に耐えながらも、あるいは「いいね!」などの反応をもらうことに満足しながら(Sherman et al., 2016)、便利なスマートフォンを長時間かつ高頻度で利用し続ける者と、このような心地悪さや中毒性といった負の側面に意識的になり、スマートフォンを何らかの行動を助けるためにより道具的に使ったり、創造的なことをするときにはあえてパソコンを選んだり、情報機器とは関わらずに行えることに時間を費やしたり、対人コミュニケーションの方が得られる情報量の多さや理解の深さがまさるという認識で対面での会話を増やすなど、行動レベルで対応できる者との差は、健康面でも、機会格差の面でも、そしてその結果としての経済格差面でも開いていくことが考えられる。

アルゴリズムの進化への過度な期待

 適切な量とバランスのとれた内容を表示するという点では、フェイスブックにおいてもアルゴリズムはまだまだ未成熟な段階にある。ところが工学的立場からは、「あと3、4年でSNSや検索で利用されている推奨アルゴリズムは劇的な改善を経て完成に近づく」という意見もある。王将などの特別なターゲットも存在しない分散的なゲームと言われる囲碁において、深層学習と強化学習が導入された2013年からわずか3年で囲碁ソフトが人間のトッププロに勝利した(大槻, 2017)という事実などに依拠した意見である。

 けれども囲碁に比べればまったくと言っていいほどルールの定まっていない、人間による日常生活のコミュニケーションや情報閲覧行動や物理世界での行動などを入力データとするコンテンツ推奨アルゴリズムが、同じ3年で劇的に改善することは少なくとも筆者には考えにくく 、むしろ人間からのフィードバック(入力)を取り入れながら生成されていく過渡的かつ中途半端な完成度を持つアルゴリズム、別言すればずっとベータ版であるにもかかわらず利用させられるアルゴリズムへの注意と対応力の差によって格差が広がることの方が現実的だと考える。

 加えて、テキストの短文化と同じようにコミュニケーションを難しくするのが、感情的にそして多義的に解釈されうる特性を備える動画のスマートフォンへの配信が日常化していくことだ。

 スマートフォン画面の大小と、そこに表示される動画広告およびテキスト広告との組み合わせと、人間の反応の関係を比較した研究では(Kim & Sundar, 2016)、大画面スマートフォン利用者と動画広告視聴者は経験に基づく直感的な処理を多用し、小画面スマートフォン利用者とテキスト広告閲読者は認知資源を駆使する論理的な処理が目立った。加えて広告から生まれる感情的(直感的)信頼はテキスト広告の場合には画面サイズと関係しなかったが、動画広告の場合には大画面スマートフォンで見た場合に大きく上昇した。つまり感情に訴えるのであれば、大画面スマートフォンの動画広告が優れているという結果である。

 キムらが示した知見は広告出稿側にもすでに蓄積されているだろうし、スマートフォン向け動画広告の増加はほぼ確実であるため、人びとは感情的信頼によって物事を判断する機会が増える。であるならば、理性的判断が必要なコンテンツにも接する機会を持とうと意識し(たとえばその代表は書籍である)、実際にそうできる者と感情のままに娯楽偏重の動画視聴と商品購買を繰り返す者の間には少なくない差が生まれるだろう。何しろ、日本を含む18ヶ国の平均として50%弱の利用者がスマートフォンへの広告に反応し(Interactive Advertising Bureau, 2017b)、ユーチューブにおいても、すでにその全視聴時間のうち70%はジャンルや内容の好みなどを入力データとするアルゴリズムによる推奨動画の自動再生を対象とした視聴になっている(Newton, 2017)のであるから。

 さらに個人よりも合理的な存在である企業組織という場を通じて、その従業員である個人に差が生まれる可能性も高い。たとえば社員の就業時間の使い方を分析することで「会議の20%の時間で内職していた。本当に必要な会議か」というような助言をするAIがすでに企業組織では導入され始めている。そしてやがては人間では気づかないような、あるいは横着でなかなかそのようなことを考えない人間に対して、業務を的確に進めるために誰と会うべきかを教えてくれたり、何にまずは時間を割くべきかを自動的に提案するサービスがこの先浸透していくことが考えられている。

 ただしここでの例はマイクロソフト社の「オフィス365」の最上位モデルの機能で、同社(日本法人)は他社と協力しながらこの機能を使った業務改革のコンサルティングを行い始めたにすぎない段階である。したがって、自動化された行動改善サービスがより非合理な存在である個人に対して浸透するには、規模や資金力の大きく、あるいは小さくとも進取性に富む企業での導入がまず進み、そのような事例を多くの組織人が知っていくあとになるので、10年内外の時間が必要だろう。

 つまり生産性を高める、あるいは創造的活動に時間をより費やすといった行動への変容を促すAIの影響力を職場で知り、新技術を早い段階で導入する個人と、ずいぶんと遅れてからそれを導入する個人との間にはやはり機会格差が生まれうる。この現象は、技術Aの革新スピードが非常に速いため補完的イノベーションがその技術革新に追いつかず、技術Aがもたらす生産性向上よりも先に格差の拡大が生じてしまうという経済学の知見(Brynjolfsson & McAfee, 2014 = 2015)によって説明されるものである。

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