ソーシャルメディア四半世紀

偽ニュースを楽しむ人たち メディア利用の格差がもたらす未来とは 東京経済大学教授 佐々木裕一

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 ウェブ日記、ブログから口コミサイト、SNS、ソーシャルゲームまで、ウェブの世界はどう進化してきたのでしょうか? 気鋭の情報社会学者が、ソーシャルメディアの過去を俯瞰しつつ、未来のネットビジネス、メディアを展望します。

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 ここからはもう少し時間的に先のことを、すなわち今後15年前後のレンジで、もう少し広く、人びとのメディア利用がどのような社会をもたらすかを考察したい。

 なおこの作業では、2016年公表の「2030年の人工知能と生活」(AI100, 2016)において、「特定の機能に特化するAIではない汎用人工知能(AGI: Artificial General Intelligence)は2030年までには開発されない」と記されたことを前提とする。また、読者とともに考えたいという目的から、仮説的な議論(Peirce, 1998; 米盛, 2007)を重視している。

SNSという巨大プラットフォームとネットワーク化された個人主義

 今後15年前後のレンジでの中心的仮説は、スマートフォンとSNS/メッセージングアプリで作られるアーキテクチャとその利用者との相互作用によって、すでに起こり始めていると考えられる機会格差がさらに広がり、これが原因となって経済格差も広がるというものである。つまり利用者の行動データが配信側システムのインプットになるため、メディア利用行動によっても格差の広がるディストピアが到来する。

 誤解を避けるために記すと、これは本書が主対象としたユーザーサイトに直接の原因があるのではない。そうではなく、SNS/メッセージングサービスが巨大プラットフォーム化したことで、そこに情報とコミュニケーションの両方が相当程度集約されてしまい、しかもそれが2013年以降の情報のコピーと拡散が遍在する環境下で、かつスマートフォンとアプリというアーキテクチャで人びとに頻繁に、つまり高速に利用されていること、そしてそのプラットフォーム事業者がAI開発に熱心であることに原因がある。

 理性的な理解が必要なニュースや真剣で切実なコミュニケーション、もう少し直感的な処理が行われる広告、そしてその行為自体が目的化したコンサマトリーなコミュニケーションといったものが、1ヶ所に、しかも大量に流れてくることは人間にとっては深刻な事態である。理性と直感のモードが切り替えにくいそのような環境におかれれば、人は直感的・感情的になってしまうし、大量の情報処理を求められると理性はどこかで音を上げるからである。

 だから多くの日本人にとって、SNSで情報を拡散するときには、「内容に共感したかどうか」(46.2%)と「内容が面白いかどうか」(40.4%)が基準になり(総務省, 2015b)、ツイッターで公式リツイートされたURLを含むツイートの59%は、そのURLがクリックされることなく公式リツイートされたものとなる(Gabielkov et al., 2016)。フェイクニュースの転送経験者(米国)23%のうち、フェイクニュースとわかっていて転送した経験を持つ者はその3分の2で、嘘とわかった時のみ転送する者もその3分の1という事態にもなる(Pew Research Center, 2016b)。

 さらに考察にあたり頭に入れておきたいのが「ネットワーク化された個人主義」(Rainie & Wellman,2012)という概念である。これは緊密に編まれた集団の拘束から個人が解放され、その個人に対して人的つながりの維持や解消、ないしは複数の人的ネットワークのマネジメントを必要とさせる社会の仕組み、さらにはそこで生きる個人のあり方を指す。本書での分析に照らして言えば、オンライン・コミュニティといった「共同体」がユーザーサイトにおいても希薄化し、グローバルサービスであるSNS利用が進む中で、所属組織での役割よりも個人としての振る舞いが重視され、しかもインターネットへ常時接続されたスマートフォンが多様な状況や立場での情報受発信を可能にし、SNSを信用基盤とした多様なサービスも利用可能になってきた社会を意味する。

人的ネットワークとアルゴリズムの影響力

 SNS上に築かれている主として既知の者との人間関係は、ソーシャルキャピタル(社会関係資本)論(Lin, 2001 = 2008)で指摘されるように、個人の地位達成とも関わる。もちろんSNSによって未知の者との新しい人間関係を作ることも可能なので、SNS自体が必ずしも格差拡大をもたらすとはいえない。だがインターネットが現実世界との接合の度合いを強めており、そこでは既知の者との交流の比重が高まっているという点に異論を唱える者は少ないだろう。

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