ソーシャルメディア四半世紀

これからのネットビジネスに欠かせない要素 東京経済大学教授 佐々木裕一

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 つまり今後は、その作り手と投稿先についての決着はついていないものの、インターネットは動画視聴メディアとしての利用が増す。これは大きく言えば、「イントロダクション」で紹介したように、双方向のコミュニケーションメディアであったラジオが放送という形に落ち着いたのと同じことである。その時、動画コンテンツは個人所有のスクリーン端末で視聴され、デジタル化もされているため1930年代のラジオよりは多様化するが、動画視聴で大衆化が進むことは制作・配信側のコントローラビリティが維持される方向に働くので、多様化の程度は極端には進まないだろう。つまり非常に多数の者が観るコンテンツがなくなることはなく、それの事業者による争奪は激化していく。

 もちろん、インターネットは汎用的な通信技術であり、その上には多様なアプリケーションが誕生するオープンで階層構造を持ったものであるから、すべての利用者がスマートフォンのタイムラインに流れてくる情報や他愛のない会話を受動的に閲覧し、あるいは推奨されるままに動画を視聴することですべての時間を費やすようになることは考えにくい。それでも動画視聴にこれまで以上に時間をとられるようになっていけば、ウェブにテキストで書かれた「情報」を読む(特に精読する)時間は確実に減っていくし、そのような利用者によってテキストで書かれたウェブ上の「情報」が目にされなくなっていけば、自らがそのような「情報」をウェブに向けて投稿する機会も徐々に減っていくだろう。

 もちろんこれは全体の傾向であり、娯楽コンテンツの視聴に明け暮れる者とそうでない者との差がこの後に述べたい機会格差の1つの要因となり、ユーザーサイトが扱う個別分野や個別サービスのライフサイクルによって生成されるコンテンツ量の減少の程度は異なる。しかしながら、他愛のないおしゃべりが投稿されるサービスとは異なり、これからのユーザーサイトは、収益を生む資産であったユーザーコンテンツ、すなわち生身の人間の投稿する「情報」が確実に生産され続けるのか否かという点に、サイトが誕生した2000年代初頭と同じように注意を払わなければならなくなるはずだ。

「仕組み」に「コミュニケーション」を取り込む

 最後に改めて、図に戻り、「コミュニケーション」をECという「仕組み」が取り込む動きについて見てみよう。それは未開拓のD象限への今後の動きでもある。

 C象限の中心に2000年以前から居座っているのが自ら商品を販売するECサイトであり、そのグローバルでの巨人がアマゾンである。最近はむしろメディア(広告)事業を強化し、「仕組み」から「メディア」という本書が取り上げたものとは逆向きの事業拡張の動きも見せているが、とはいえ依然として同社の基幹事業はECであり、早期から自社サイトにテキストでのユーザーレビューを取り入れ、アフィリエイトサービスを提供することで利用者が外部サイトで生成する「情報」も活用してきた。

 そのアマゾンが2010年代に進めてきたのが、SNSそしてスマートフォンの利用とともにその量が大きく増大し、これから減るということが考えにくい「コミュニケーション」データの活用である。具体的には、ECという「仕組み」の利用促進に関わる音声でのデータ蓄積のために、スマートスピーカー分野でアマゾンエコー(Amazon Echo)という商品で先行し、音声認識ソフトウェアのAPIであるアレクサ(Amazon Alexa)を公開し、関連アプリケーション開発を外部企業に促している。このハードウェア販売によるアマゾンの主たる狙いは、口頭での会話に対する認識精度を上げ、手間のかからない数回の音声でのやりとりで利用者が望む商品を推奨し、販売していくことにある。アマゾンにとっては、スマートスピーカーはいわば音声による商品ジャンルを問わない自動販売機である。

 アマゾンの競合企業の一番手は図に示されていない大きすぎる存在であり、「検索」を提供するグーグルだ。各象限のサービスをどのデバイスで利用するにせよ、インターネット利用者が検索を使うことは今の時点では非常に多く、あえて示すなら図の外枠と同じ面積を持つのがグーグルである。しかも近年のAI技術のブレークスルーとなった深層学習においては、学習データ量の多さが推奨アルゴリズムの精度をほぼ決めるため、検索に加え、メール、そしてスマートフォン(アンドロイドOSの世界シェアは最も高い)を携帯した人びとや車などの移動データと地図データを併せ持つ同社は、ビッグデータを活用して機械学習を行うタイプのAIにおいて勝者となる確率が高い。

 ただしアマゾンとは異なり、彼らはユーザーサイトの「下部構造としての広告収益モデル」の元締め的存在で、広告配信という「仕組み」は持つものの、それ以外の「仕組み」による大きな収益はない。そういう意味でグーグルが「メディア」から「仕組み」へという動きを見せるとすれば、それは広告から利用者の行動までを一気通貫でデータが捕捉可能となることを意味するので注視すべき点である。

 ここまで述べてきたとおり、今後5~8年ほどのインターネットビジネスでの顕著な潮流は、EC(およびその派生領域)という「仕組み」の洗練化であり、具体的には購買意思決定のために、理性的な情報中心であったものに加えて、リッチ化された情報によって感情的な部分も増やすこと。さらに情報とはやや異質なコミュニケーション(会話)というデータもそこへ取り込んでいく運動になるだろう。そのインターフェイスとして新たに期待されているのがスマートスピーカーであるが、スマートフォン+アプリという既存のインターフェイスもすぐに取って代わられるわけではなく、スマートフォンでもチャットコマースが進んでいく。そして、そのいずれもがパーソナライゼーション、すなわち個人対応の色彩の濃いECをゴールとするようになるだろう。

佐々木裕一著『ソーシャルメディア四半世紀』(日本経済新聞出版社、2018年)「第15章 ユーザーコンテンツのこれまで、これから」から
佐々木 裕一(ささき・ゆういち)
1968年生まれ。1992年一橋大学社会学部卒業。学部時代にフランス高等商業学院 (HEC) に給費留学。2009年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程修了。電通での消費財マーケティング・コミュニケーション戦略立案、アーサー・D・リトル・ジャパンとNTTデータ経営研究所での製造業・情報サービス業の全社戦略策定、スタートアップ企業への投資などの業務を経験し、大学教員に。2011年~2013年カリフォルニア大学サンディエゴ校訪問研究員。現在、東京経済大学コミュニケーション学部教授。


キーワード:経営・企画、経営層、管理職、経営、技術、製造、プレーヤー、イノベーション、フィンテック、AI、ICT

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