ソーシャルメディア四半世紀

ソーシャルメディア、四半世紀の分析から気付く「3つの事実」 東京経済大学教授 佐々木裕一

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テキスト投稿の多くは身内のおしゃべりになった

 投稿時に書かれるテキストの変化も見逃せない。すなわちユーザーサイト利用者によって投稿されるテキストの重心が、ブーニュー流の「情報」から「コミュニケーション」へと変化したことである。それは仮に投稿されるものが写真や動画やイラストであっても、併記されるテキストにおいて若年層の利用するサービスでは2006年頃に見られ始めた。さらにウェブ上のニュースがボタンの一押しでSNSへと転送されるようになった2012年以降の環境下では、「情報」の転送を含む広義の投稿量が増えたのと裏腹に、人びとの頭の中の多くの部分を占めるようになったのはSNSで展開される「コミュニケーション」となった。SNSには、閲覧者による反応が明示化され、数値化される情報環境が備わっていたからである。

 加えて2013年後半以降にネットワーク効果が働き、20代に限らずスマートフォン契約者が増えていくと、「相手も利用している端末はスマートフォンである」という共通認識が醸成され、ツイッターとフェイスブックといったSNS同様に、本書が対象としたユーザーサイトには含めなかったメッセージングアプリ、つまりLINEなどの利用も活発化した。

 ここで言う「コミュニケーション」が00年代前半以前のオンライン世界で展開されていなかったわけではない。パソコン通信(ニフティサーブ)には「チャット」というサービスがあり、2ちゃんねるでもおしゃべりは展開されていた。「つながりの社会性」(北田, 2005)とはそういったもののうち極端なものへの指摘であった。ただしパソコン通信サービスの会員数は最盛期の1996年でも「情報」への意識の強い約600万人で(郵政省, 1997)、仮に5人に1人が投稿側であったとしても120万人であった。2005年末には、コミュニケーション色の濃いmixi日記を1週間に1件以上書いていた者が120万人ほどはいたが、2005年の「ユーザーサイト単月投稿者」はそれを含めて540万人でしかなかった。その数が約3000万人になり、LINEでの投稿者を勘定に入れれば、約6000万人になった時代のそれとは異質なものであろう。

 コミュニケーションの6機能を示したヤコブソン(1960= 1973)のそれには「交話的機能」が含まれる。また進化生物学者のダンバー(1996 = 1998)は、肉体的接触である毛づくろい(グルーミング)によってほ乳類は群れの絆を維持していたが、大きな集団を維持する段となり毛づくろいの不足を補うために声によるコンタクトを開始し、それが言語の起源となったとの仮説を展開している。

 であるならば、ここで指摘した変化はおしゃべりを可能にするソフトウェア群がごく当たり前に人間である利用者に支持されただけである、とも説明できる。そもそも、おしゃべりはダンバー仮説にもあるように本来的に身内でなされるものであるため、広い「場」のあるユーザーサイトにおいても、「場」への意識を希薄化させ、「情報」が「コミュニケーション」化していくという循環を生み出したと考えられる。

 実は音声の領域で、このようなおしゃべり化の流れをこれまでにも私たちは経験している。1910年の米国における電話の個人普及率は1割に満たず、それはビジネスの道具であった。ところが、1930年代半ばには全般的に低所得である賃金労働者のうちの所得の少ない世帯でも2割以上が電話を保有し、人びとは社交のための会話にそれを使うようになった(Fischer, 1992 = 2000)。男性よりも女性、年配者よりも若者においてその傾向は強く、後者については、「(10代の若者同士は)さっきまで学校で一緒だったのに電話をする」(Mayer, 1977)という記述まである。日本でも玄関に置かれていた固定電話が頻繁に利用され日常化すると、応接間や台所そしてリビングルームへと移動し、(吉見ら, 1992)。1960年代以降には、電話の主たるやりとりの中身は会話となった。

 筆者は「コミュニケーション」化が悪とも考えないし、人間にとってごく自然な変化だと考える。ヤコブソンとダンバーの他にも諸説あり、グレーザーズフェルド(1995 = 2010)はやりとりの継続がコミュニケーションの本質と述べている。ボルツ(1993 = 1999)は理性的な合意形成を語るハーバーマス(1962=1994)を「他のすべてのコミュニケーション形式を一段価値の低いものと考えている」と批判した。

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