ソーシャルメディア四半世紀

ソーシャルメディア、四半世紀の分析から気付く「3つの事実」 東京経済大学教授 佐々木裕一

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 2015年にはユーザーサイトの収益モデルはほぼ出揃い、「メディア」から「仕組み」となるために最後の収益モデルとして模索されていたのがCtoC取引だったが、これは利用者視点に立てば、「有償でのコンテンツ投稿」の次なる段階の「モノの提供(モノの売買を前提とした投稿)」に位置づけられる。というのも自分の所有物やスキルを誰かに向けて販売するにあたり、そのモノなどの写真を撮影し、それを説明するために若干のテキストも投稿するからである。

 CtoC取引の代表的サービスは、2000年にユーザーサイトの映画生活を公開した山田進太郎による2013年7月開始のメルカリであるが、山田はメルカリの創業を次のように語る。

 いままで旅行しなかった人たちが、LCCで格安に旅行をするようになりました。宿泊の概念を変えたAirbnbも、タクシーのUberもそうですが、需要を爆発的に下に拡大しているのです。僕らはヤフオクさんとよく比較されますが、ヤフオクさんは年間取扱高が7000億円と巨大で、僕らがそのユーザーを奪っているかというと、違います。巨大なピラミッドを見たとき、水面にでているのがヤフオクさんで、水面下には誰も気づかない巨大なマーケットがあったのです。(山田進太郎:2014年12月 ただし(藤吉, 2014)より引用)

 CtoC取引には、米国発の1995年創業のオークションサービス、イーベイや個人広告掲載サイトである1996年創業のクレイグズリスト(Craigslist)があり、日本でも後に最有力となるYahoo!オークションが1999年に開始されている。とはいえSNSという個人に対する与信の仕組みとWi-Fiが普及した環境下で、スマートフォンによって実に簡単に出品・取引が可能なように設計されたメルカリに比べれば、ここに列挙したサービスにおける取引に至るまでの「摩擦」はそれなりにあった。また、当時のパソコン所有者は2013年のスマートフォン所有者に比べれば非常に限られており、そこも起業に先駆けた世界一周の旅をする中で山田が目をつけた肝心な箇所であった。

 メルカリはこのように世界を視野に収めてスタートしたが、「価格の低い方への需要」は世帯可処分所得の減少傾向を持っていた日本にもフィットした。そして同社の2017年6月期の売上高は220億円、2018年1~3月の流通総額は1000億円(メルカリ, 2018)となり、2016年のCtoCネットオークション市場(3458億円)とは別カテゴリーとして計算された「フリマアプリ」市場は3052億円という規模までになった(経済産業省, 2017)。

 つまるところ、日本における現在の個人によるコンテンツ投稿は、(2)「モノの交換(売買)にまつわる経済的見返りを期待したコンテンツの投稿」と(3)「有償でのコンテンツ投稿」を合わせたものが主流となり、これが(4)「モノの提供(モノの売買を前提とした投稿)」へとシフトし始める時期のとば口にあるというのが筆者の見方である。

 芸術家のヨーゼフ・ボイス(1972)は「すべての人は芸術家である」と語った。誤解を生み続けてきたこのことばは、誰もが芸術家になれるということを意味していない。そうではなくて、自身の内的な思考と行動だけが創造力の産物であるということを伝えている。それは渋谷陽一が集めようとしたものが「自分自身がロックにつき動かされたもの」であったことに近い。ところが、内的なものの発露を第1とする「無償でのコンテンツ投稿」がユーザーサイトあるいはソーシャルメディアにおいて中心を占める創造力の時代は、多くの者が日常的に接しているインターネット空間においては過ぎ去り、2010年代半ば以降には、むしろ経済的対価をもらうことを前提とした「労働」(と呼べる投稿)がオンライン世界の中心に座るようになったのである。そしてそこに働きかけていたのは情報技術とそれが織りなすアーキテクチャであった。

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