ソーシャルメディア四半世紀

ソーシャルメディア、四半世紀の分析から気付く「3つの事実」 東京経済大学教授 佐々木裕一

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 ユーザーサイトに投稿することで経済的な見返りを得ようという気運が強まっていくのが2010年頃だった。(2)「モノの交換(売買)にまつわる経済的見返りを期待したコンテンツの投稿」と(3)「有償でのコンテンツ投稿」への移行の開始である。

 「モノの交換(売買)にまつわる経済的見返りを期待したコンテンツの投稿」の典型はアフィリエイト広告を表示するブログへの投稿である。つまり、商品やサービスを推奨する投稿内容が増えていった。そして2016年度にはアフィリエイト市場は2000億円を超えた(矢野経済研究所, 2016) 。

 「有償でのコンテンツ投稿」については、NAVERまとめに報奨金制度が導入されたのが2010年である。それはPVに基づく評価だったので、いかに閲読者にとって「面白い」か、つまり多くのアテンションを集めるかが投稿者にとって最も腐心する事柄になっていった。ツイッターでの炎上を招く写真が投稿されたり、職業として注目を集めるようになったユーチューバー(YouTuber)のうち多くのチャンネル登録者を持つ者のコンテンツ制作もその流れに位置づけられる。さらに2016年になると人びとの持つ希少なアテンションの奪い合いは、マーケティングの世界からフェイクニュースによってジャーナリズムの世界にも及ぶことになった。

 「有償でのコンテンツ投稿」が日本で一般化したのには、スマートフォンでの「見るウェブ」に適応する流れから生まれた「キュレーションサイト」と称されるサービス群の影響もあるだろう。実際のところ、そこでは検索回数の多い語に基づく運営者側の指示によって、経済的見返りを期待した利用者による投稿がなされていた。しかもキュレーションサイト間の競争が激しくなり、記事あたりの執筆単価が下がっても書き手の需要はあり続け、その1つの、そして大きな顛末が2016年にD e NAの運営する10の「キュレーションサイト」が閉鎖となった「WELQ事件」であった。

 この一件を暴いたのはネット言論であり、自浄作用が働いたという意味では希望を感じさせた。一方、コピー&ペーストを主とする低コストの編集、つまり「疑似キュレーション」が、情報価値の高いコンテンツの提供を謳うサービスにおいても常態化し、多くの閲覧者がそれに満足し、また興じていたことはウェブ上の情報におけるオリジナル投稿文化という規範ないしは常識が完全にすみに追いやられたということを示している。

 著述家のカー(2016 = 2016)は2006年に自身のブログで「支配者らが貨幣経済圏で幸せに仕事をしているあいだに、小作人らはアテンション・エコノミー(注目や関心が集まることで価値が生まれ、交換財となり得るという概念)圏で幸せに仕事をしているのである」と書いていたが、日本において「デジタル小作人」が大量に誕生したのはそれからおよそ10年後であった。このことと、SNSにおける行為が重要視される「コミュニケーション」が2012年以降に増えていったことを踏まえて、筆者は2010年を「ユーザーサイトの黄金期=メディアとしての衰退前夜」と名付けたのである。

 「モノの交換(売買)にまつわる」コンテンツの投稿は古く2000年前後でもなされていた。しかしそれは「経済的見返りを期待」するものでは必ずしもなかった。つまり「無償でのコンテンツ投稿」に属するものであり、2015年においてもそこにこだわり続けるユーザーサイトの例も記した。

 それでも「モノの交換(売買)にまつわる経済的見返りを期待したコンテンツの投稿」と「有償でのコンテンツ投稿」の領域が拡大したことで、たとえば@cosmeでは「無償でのコンテンツ投稿」が減少し、冷静なレビューの減少も危惧されるようになった。また、ニコニコ動画への投稿件数は2015年から2017年にかけて月間10万件まで半減し、クックパッドの投稿レシピ数は2017年7月にはほぼ2万件となった。これは2015年半ばの2万9000件に比して30%減である。

 さらに2016年以降は「キュレーションサイト」の一件もあってか、「モノの交換(売買)にまつわる経済的見返りを期待したコンテンツの投稿」と「有償でのコンテンツ投稿」に対して「思いの外、割が良くない」ことが一部の人びとに気づかれていくようになった可能性がある。

 具体的には、アフィリエーターのうち、1ヶ月のアフィリエイトによる収入が5000円に満たない者が約半数を占め、長期にわたりアフィリエイトを行っている者ほど得る報酬額が大きいのだが(アフィリエイトマーケティング協会, 2016; 水野, 2017)、このことを体感する者は増えたはずである。また「有償でのコンテンツ投稿」については、ユーチューバーでも十分な収益を得られる者が限られた一部であるという事実が徐々に知られるようになったからである。そしてそれらを知った人びとの一部が、次の段階である(4)「モノの提供(モノの売買を前提とした投稿)」へと移行し始めたと考えられる。

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