ソーシャルメディア四半世紀

ソーシャルメディア、四半世紀の分析から気付く「3つの事実」 東京経済大学教授 佐々木裕一

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 ウェブ日記、ブログから口コミサイト、SNS、ソーシャルゲームまで、ウェブの世界はどう進化してきたのでしょうか? 気鋭の情報社会学者が、ソーシャルメディアの過去を俯瞰しつつ、未来のネットビジネス、メディアを展望します。

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 2001年の「思想を持ったスモールメディア」、2005年の「ユーザーサイト・アズ・ア・ビッグビジネス」、2010年の「ユーザーサイトの黄金期=メディアとしての衰退前夜」、そして2015年の「メディアから仕組みへの助走」というタイトルを思い出しながら20余年で何が起きたのかを振り返っていこう。

下部構造としての広告収益モデル

 ユーザーサイト誕生前後からサイトの収益を支えていたのは広告であった。その生命力は非常に強く、インターネット広告の歴史にかなりの量の記述を割くことになった。1948年創刊の雑誌『暮しの手帖』は、メーカーの広告を出稿しない方針を採用したが、コンセプトではそれと似たユーザーサイトは収益モデルで同じ道筋を歩むことはなかったのである。

 理由の1つには技術的制約があった。インターネットでの商取引を睨にらんで20世紀末には複数の電子通貨が実装されたが、結局のところ多くの利用者を得たのはクレジットカード決済である。けれどもクレジットカード決済は、販売者、場合によっては支払い側に手数料が発生するために、数百円以下の少額決済、すなわちユーザーサイトの利用料やコンテンツへの対価には不向きであった。

 そこでユーザーサイト事業者は、まだ産業化されておらず、その販売も容易ではなかった広告という手段を選ぶようになった。2000年ではサイト運営コストがまだ絶対的に大きく、ユーザーコンテンツが増えれば増えるほど赤字を大きくしたため、コンテンツパッケージ型の収益モデルも模索されたが、その努力が果実となるには早すぎ、結果として広告収益モデルの採用が進んだ。

 一般利用者の投稿にはそれがプロの手によるものにかかわらず、優れた情報や作品、受け手にとって意味なり価値を持つものには対価を払おうという考え方もあった。2002年に開始された文字どおりの「投げ銭システム」をはじめ複数のサービスが実装され、近いところとしてニコニコ動画ではアップロードされた動画の一部に対して会費を原資とする現金が支払われている。だが2018年においても依然として「投げ銭」的なシステムは広く普及していない。

 コンテンツ生成者に直接支払いを行う少額決済が習慣化していたら、という仮定をおくことは可能ではある。けれどもコンテンツや広告を表示する技術と決済技術の後者だけが速いスピードで進むことは考えにくく(両者ともインターネットビジネスには同程度に必要なものである)、しかも前者の方が21世紀初頭においては実用化に近い位置にあったため歴史は本書で示したような道筋をたどった。

 そして思い出して欲しいのは、「インターネットにおいて情報は無料である」という利用者側の常識の強さとその事業者への影響力である。つまりその当時は、技術よりも人間の方がユーザーサイトの収益モデルに強い影響力を持っていた。

 ところが広告は2010年代半ばから大幅な技術的革新を遂げる。アドテクノロジーによって、広告効果の高いと推定されるアクセスに向けて配信され、個人化(パーソナライズ)された内容となったのだ。

 スマートフォンアプリのタイムラインを流れるコンテンツと類似した形で配信されるネイティブ広告と呼ばれるものもあるが、「画面の小さなスマートフォンでタイムライン表示にすると、(PRと表記されていても)広告のクリック率はパソコン画面に比べて数倍になる。目に入ったコンテンツに対してパソコンに比べてユーザーがより受動的というか、コントロールされた形で動きます」(メディアサービス関係者:2016年)という事態を招いている。つまりかつてとは違い、収益モデルを機能させるためのアーキテクチャが人間の行動を規定する局面が増えたのだ。

ユーザーコンテンツは物販を補う存在に

 インターネット広告にはそれまでの広告とは決定的な違いがあった。それは、その計量可能性だった。もちろん閲覧数やクリック数がどれだけ正確かという問題はどこまでも残るが、この領域に関わる者たちは、広告主も含め計量可能性を強く信じることになった。

 このことは哲学者ドゥルーズ(1990 = 2007)の1990年のことばである、「いまやマーケティングが社会管理の道具となり、破廉恥な支配者層を産み出す。規律が長期間持続し、無限で、非連続のものだったのにたいし、管理は短期の展望しか持たず、回転が速いと同時に、もう一方では連続的で際限のないものになっている」の程度を強めたことを意味する。

 そして広告収益モデルという下部構造と連続的なマーケティングの常態化によってユーザーサイトへの投稿の内容や動機には次のような段階的な変化がもたらされた。

 (1)無償でのコンテンツ投稿
 (2)モノの交換(売買)にまつわる経済的見返りを期待したコンテンツの投稿
 (3)有償でのコンテンツ投稿
 (4)モノの提供(モノの売買を前提とした投稿)

 (1)「無償でのコンテンツ投稿」とは、2008年頃までの投稿者の基本動作であった。ユーザーサイトという「場」に投稿されたコンテンツが自分の役に立ったので今度は自分が誰かのために投稿する、あるいはその逆に、自分が投稿することで他者から情報や支援を得られることを期待するもので、「一般的互酬性への期待」(Kollock, 1999)と呼ばれるものが主たる動機である。つけ加えるならば、投稿が広く公開されないSNSよりもオープンなウェブへのトラフィックが勝っていたため、ここでの「場」はユーザーサイトを超えたウェブ全体を指すことも多かった。それは、「集合知」などとも言われ、その可能性はウェブ2.0という標語とともに語られた。

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