現場発で考える新しい働き方

労働事件の最高裁判決の「射程と影響」を考える 弁護士 丸尾拓養

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3、不合理性に関するガイドラインは策定可能なのか

 2016年(平成28年)12月に「同一労働同一賃金ガイドライン案」が、政府(厚生労働省)から働き方改革実現会議に提示されました。この内容については企業関係者の関心も高く、また困惑する声も少なくないように思われます。現時点では「案」にとどまりますが、今後、「ガイドライン」とされることが予定されているのでしょう。もっとも、「ガイドライン」の位置づけや法的拘束性については今後議論されることになります。

 このガイドライン案では、賞与に関して「問題となる事例」として、次の2つが挙がっています。

<問題となる例(1)>
・賞与について、会社の業績等への貢献に応じた支給をしているC社において、無期雇用フルタイム労働者であるXと同一の会社業績への貢献がある有期雇用労働者であるYに対して、Xと同一の支給をしていない。
<問題となる例(2)>
・賞与について、D社においては、無期雇用フルタイム労働者には職務内容や貢献等にかかわらず全員に支給しているが、有期雇用労働者又はパートタイム労働者には支給していない。

 もちろん、今後の立法が司法の判断に常に拘束されるものではないでしょう。事例判断にすぎない或る最高裁判決と、ガイドラインの性格は大きく異なるものでしょう。そうであっても、最高裁判決にうかがえる悩みや逡巡、企業の現場が覚える違和感、そして何よりも正社員である労働者が抱える複雑な思いと比較したとき、「問題となる例」の示し方はややシンプルかつ断定が過ぎるとも思われます。上記(1)が「会社の業績等への貢献に応じた支給をしている」場合の「同一の支給」の事例であると、上記(2)が「支給していない」事例であると注意して理解しても、少なくとも上記(2)は今回の最高裁判決の事例判断とは異なるようです。最高裁判決は「両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である」としており、各賃金項目を個別に取り上げることだけを当然には求めていません。

 この6月1日の最高裁判決には、「両者の労働条件が均衡のとれたものであるか否かの判断に当たっては、労使間の交渉や使用者の経営判断を尊重すべき面があることも否定し難い」という一節、「労働者の賃金に関する労働条件の在り方については、基本的には、団体交渉等による労使自治に委ねられるべき部分が大きい」という一節もあります。一方で、「有期契約労働者については、無期労働契約を締結している労働者と比較して合理的な労働条件の決定が行われにくく、両者の労働条件の格差が問題となっていた」との一節もあります。判決の結果にこだわることなく、最高裁判決が実務に向けて発したメッセージに真摯に対応することが求められるのでしょう。おそらく、これは企業だけに向けたものではなく、雇用社会のすべての当事者に向けられたものです。雇用システムが変容していく中で、取り残された部分、変化が遅れている部分に対し、自ら動き出す、考え出すことを求めて、最高裁はメッセージを発しているようにも思われます。

丸尾 拓養(まるお ひろやす)
丸尾法律事務所 弁護士
東京大学卒業。第一東京弁護士会登録。

キーワード:経営、企画、人事、経理、営業、経営層、管理職、プレーヤー、働き方改革、マーケティング、人材、研修

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