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労働事件の最高裁判決の「射程と影響」を考える 弁護士 丸尾拓養

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2、具体的な規範の定立ができない場合もある

 約10年前に、ファストフード店の店長が割増賃金を請求し、これを認めた地裁の判決がありました。大きく報道され、「名ばかり管理職」という表現が使われました。しかしながら、法的には、就業規則上で「管理職」扱いされている当該労働者が労基法41条2号の「管理監督者」(「監督若しくは管理の地位にある者」)に該当するかという問題です。管理職が「名ばかり」であるか否かではなく、管理職という名で扱われる労働者が「管理監督者」という規範に該当する実態を有するか否かが問題でした。

 この地裁判決では、「管理監督者」の解釈と適用が問われましたが、「管理監督者」の解釈、すなわち規範定立は不明瞭でした。たしかに「経営と一体」などの表現が用いられましたが、このような抽象的表現が法的判断に機能するとは考えられません。おそらく、この下級審判決も、少なくとも他事件にも適用されるような、または最高裁判決の公権的解釈を先取りするような規範を定立することを予定していなかったでしょう。同事件は単独事件であり、担当裁判官は比較的若手の1人の裁判官でした。裁判官も規範定立を企図せず、同事案での事例判決のつもりだったでしょう。

 その後に「管理監督者」の解釈適用が問われた事案がいくつか判決に至りますが、いずれも同様の判断手法をとっています。仮に上告が受理されて最高裁判決が言い渡されたとしても、具体的な規範が定立されるとは限りません。具体的規範が定立できないこともあるのです。

 6月1日の最高裁判決には、「不合理と認められるもの」の判断手法について、次のような一節があります。

 「両者の労働条件の相違が不合理であるか否かの判断は規範的評価を伴うものであるから、当該相違が不合理であるとの評価を基礎付ける事実については当該相違が同条に違反することを主張する者が、当該相違が不合理であるとの評価を妨げる事実については当該相違が同条に違反することを争う者が、それぞれ主張立証責任を負うものと解される。」

 専門用語で難解ですが、いわゆる主張立証責任を判示した部分です。最高裁判決では珍しいように思われます。この直前の「職務の内容等が異なる場合であっても、その違いを考慮して両者の労働条件が均衡のとれたものであることを求める規定である」との一節や、「両者の労働条件が均衡のとれたものであるか否かの判断に当たっては、労使間の交渉や使用者の経営判断を尊重すべき面があることも否定し難い」との一節の存在を踏まえたとき、「不合理と認められるもの」(不合理性)について多種多様な事案に適用できるような汎用性を持った一般的かつ具体的な規範の定立について、この最高裁判決は、可否としても適否としても、消極的な姿勢を謙抑的ながらも示しているようにも読めます。

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