”社風”の正体

トヨタはなぜ、「なぜ」を5回繰り返すのか 大分県立芸術文化短期大学教授 植村 修一

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

 「ウーバー 危うい企業文化」と題する記事が出ました(2017年6月13日付、日本経済新聞)。米ライドシェア最大手ウーバーテクノロジーズの創業者トラビス・カラニックCEOの休職(のちに辞任)を告げるもので、その背景にあるのは、急成長の陰ではびこるパワハラやセクハラを容認した「社風」でした。

パワハラも不正も企業文化?

 同社については、かねてより成長のためには手段を選ばないカラニック氏の姿勢と、それを反映した、法令遵守を軽視する攻撃的な企業文化が取り沙汰されていました。

 新興企業の場合、良きにつけ悪しきにつけ、創業者の強烈な個性が社風に反映され、結果として、コンプライアンス違反の問題が引き起こされる可能性について理解できますが、名門企業といえども、その難から逃れることはできません。

 2015年、世界の自動車業界を揺るがしたのが、9月に明らかとなった、フォルクスワーゲン(VW)のディーゼル排ガス不正ソフト事件です。米カリフォルニアの規制当局によって、大気汚染物質の排出試験時にのみその無効化装置を機能させていたことが暴かれ、世界中で大量リコールを余儀なくされました。

フォルクスワーゲン、不正の背景にある企業文化

 事件の背景については、ニューヨーク・タイムズ紙のジャック・ユーイング記者による『フォルクスワーゲンの闇』(日経BP社)に詳しく書かれています。同書には、従業員や州政府の代表も加わる監査役会の機能不全というコーポレートガバナンス上の問題や、威嚇的で権力主義的なフェルディナント・ピエヒ元会長(創業家出身)による強烈なプレッシャーが描かれています。

 さらに、次のような、企業文化の問題も指摘します。

 「幹部たちのほとんどは、当然のことながら、ピエヒに反抗しようとはまったく思わなかった。それどころか、彼らはピエヒのマネジメントスタイルに感化されて、自分たちも部下に対して同じように振る舞った。社内文化、すなわち大きな組織のなかで支配を広めていく暗黙のルールは、そうやって形成されていく」

 「異議許さぬ社風」という言葉は、VWの排ガス不正事件に関する記事等の中で、しばしば見られます(例えば、15年12月9日付、日本経済新聞の元GM副会長ボブ・ラッツ氏のコメント)。

金もうけよりも権力拡大

 前述ユーイング氏の著書によれば、ピエフ元会長は、「金もうけよりも権力拡大に目を向けた」とあります。一橋大学の田中一弘教授は、金銭に限らず、社会的地位や名誉、闘争心、安堵感など、「他者のためにはならなくても自分のためにはなる」ことを志向する心を「自利心」と呼び、いわゆるコーポレートガバナンスの議論とは、この経営者の自利心が、株主を中心とするステークホルダーの利益を損なうことがなく、むしろ(結果として)その利益になるよう、アメ(インセンティブ)とムチ(監視や牽制)によって規律付けようとするものであると解釈します。

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。