石澤卓志の「新・都市論」

五輪後の不動産市況に「強気でいられる理由」 みずほ証券 上級研究員 石澤 卓志氏

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 このように、ほとんどのエリアで賃料上限が上昇しているが、2007年~2008年のミニバブル期の水準は未だに下回っている。さらに遡ると1991年頃のバブル期には、「丸の内・大手町」には10万円超、「西新宿」には7万円程度のビルがあった。このためビル事業者には、少数ながら、現在の賃料水準を「まだ低い」と見る向きもある。

地方都市のオフィスビル市場も好調

 オフィスビル市場が好調な都市は、東京だけではない。主要都市の2018年4月末時点の平均空室率は、大阪、名古屋、札幌、仙台、福岡のいずれも、過去22年間(1997年以降)で最も低い水準となっている。

 大阪では、敷地面積4.8万平方メートル、延床面積56.8万平方メートル(うちオフィス部分は23.7万平方メートル)におよぶ「グランフロント大阪」が2013年4月に竣工した後、オフィスの平均空室率が11%超に達した影響もあって、新築ビルの供給が激減した。「グランフロント大阪」は2017年春にほぼ満室を達成したが、ビル供給量が抑制された状態が続いているため、最近ではビル不足感が強まっている。2018年に大阪市内で供給される大規模ビルは、9月に完成予定の「なんばスカイオ」(延床面積8.4万平方メートル)だけの見込みだが、同ビルは既に大部分のテナントが決定している。その後は、2020年1月まで大規模賃貸ビルの供給予定は見当たらない。

 名古屋では、2015年10月から約3年間にわたって大規模ビルの竣工が相次いだ。ビルの大量供給は、ビル市況の悪化要因となることが多い。しかし、名古屋は地元経済が好調のため、新築ビルの多くが高稼働率を達成し、優良ビルの増加によってビジネス環境が整備されたことが、地元経済のさらなる活性化につながった。潜在需要が強いエリアでのビル供給には、「供給が新たな需要を創出する」効果があると言える。

 このように大阪と名古屋は、いずれもオフィス空室率が低下しているが、後者は大量供給、前者は供給不足と、それぞれの背景は正反対と言える。名古屋市内の大量供給は2017年で一段落し、2018年の大規模賃貸ビルの供給予定はゼロ、2019年は1棟のみの見込みである。このため名古屋も、今後はビル不足の傾向が強まると予想される。

 オフィスビルは企業活動の基盤である。個人にとっての住居もそうだが、活動の基盤がしっかりとしていなければ、経済の発展や生活品質の向上は期待できない。別な見方をすれば、企業の移転や住宅取引が活発であれば、たとえ「実感できない」状況であっても、景気は着実に改善していると言える。

石澤 卓志(いしざわ たかし)
1981年慶應義塾大学法学部卒、日本長期信用銀行入行。調査部などを経て長銀総合研究所主任研究員。1998年第一勧銀総合研究所で上席主任研究員。2001年みずほ証券に転じ、金融市場調査部チーフ不動産アナリスト。2014年7月から上級研究員。主な著書に「東京圏2000年のオフィスビル 需要・供給・展望」(東洋経済新報社 1987年)、「ウォーターフロントの再生 欧州・米国そして日本」(東洋経済新報社 1987年)、「東京問題の経済学(共著)」(東京大学出版会 1995年、日本不動産学会著作賞受賞)などがある。国土交通省「社会資本整備審議会」委員など省庁、団体などの委員歴多数。

キーワード:経営層、管理職、プレーヤー、経営、営業、企画、人事、人材、グローバル化

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