石澤卓志の「新・都市論」

五輪後の不動産市況に「強気でいられる理由」 みずほ証券 上級研究員 石澤 卓志氏

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 このように多様な移転事例が増える中で、ビル毎の賃料格差も拡大している。前述した通り、東京都心5区の「平均」の賃料は52カ月連続で上昇しているが、その一方で、賃料の「上限」と「下限」の差が拡大したエリアが増えている。このような賃貸条件の多様化が影響しているためか、ビル事業者の中にも、現在の好況を「実感できない」とする意見は根強い。代表的なエリアの賃料動向を見てみよう。

 「八重洲・京橋・日本橋」は、東京23区内で最もビル供給量が多いエリアの一つと言える。それだけにビル間のテナント獲得競争も厳しい。同エリアでは、2013年3月に竣工した大規模ビルが坪当たり約4万円の、この時点ではトップクラスの賃料で満室を達成して以来、この賃料水準が新築・大規模ビルのベンチマークとなった。一方、同エリアの小型ビルの平均賃料は1.7万円、隣接する「築地・新富・茅場町」エリアの小型ビルは1.2万円と、都心部としてはかなり低い水準である(2018年3月末時点、三幸エステート調べ)。このため、立地条件の改善を目的に、中堅企業がこれらのエリアに移転する例も目立つ。

 「渋谷・原宿」エリアは、渋谷駅周辺の再開発工事によって、歩行者の動線が悪化したため、不動産関係者からは、「顧客が新宿三丁目方面に流出している」との指摘も出ていた。しかし2018年秋から再開発ビルが次々と竣工する見込みなので、今後は周辺エリアから顧客が流入しそうだ。同エリアはこれまで大規模ビルが少なかったため、オフィス需要が潜在化していたが、需要の「受け皿」となる再開発ビルの完成によって次々と顕在化し、新築ビルの賃料も上昇傾向が強まっている。

 「西新宿周辺」エリアでは、複数の再開発が進行しているが、西新宿5丁目や西新宿6丁目など、JR新宿駅からやや離れた場所の事業が多い。このため、新築ビルの賃料は、2017年上半期から3.2万~3.3万円程度で横這い状態が続いている。

 「丸の内・大手町」エリアでは、多数の大規模開発事業が進行中だが、そのほとんどでテナントが内定し、新築ビルのテナント募集は少ない。一方、既存ビルの募集賃料の上限は6万円と、東京23区内でも突出した水準である。この中には、やや築年数が経過したビルも見られるが、同エリアのブランド力を意識した値付けと言える。一方、有力テナントを誘致するために戦略的に賃料を引き下げている例もあり、ビル毎の賃料格差が大きい。

 「銀座」は商業ビルが中心のエリアで、グレードの高いオフィスビルが少ないため、オフィス賃料の上限は、2016年まで3.5万円に抑えられていた。このような中で、2017年1月に竣工した「GINZA SIX」のオフィス部分の賃料は4.5万円となり、賃料上限が一挙に3割近くもアップした。同ビルの完成によって、銀座の新築ビル供給は一段落したが、既存ビルには5万円超の高水準でテナントを募集している例があり、「GINZA SIX」の開発効果が続いていると言える。

 「赤坂・青山」エリアでは、2017年8月に竣工した「赤坂インターシティAIR」が、NTTドコモなどの入居によって満室となった。この開発効果もあって、同エリアの既存ビルの賃料上限は、2017年上半期までは4万円だったが、同年下半期以降は4.5万円に上昇した。隣接する「虎ノ門」エリアで多数の再開発事業が進行している波及効果もあり、「赤坂・青山」エリアの賃料は、今後も上昇基調が続くと予想される。

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