石澤卓志の「新・都市論」

五輪後の不動産市況に「強気でいられる理由」 みずほ証券 上級研究員 石澤 卓志氏

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現在のビル供給量は、必ずしも大量ではない

 オフィスビル市場の好況は、(1)景気回復が続く中で、企業のオフィス需要が拡大していること、(2)現在のビル供給量は必ずしも大量ではないこと、の需給両面の要因によるものと考えられる。

 上記(2)の背景については、(a)2018年~2022年のビル供給量は年平均で101万平方メートルとなり、過去32年間(1986年~2017年)の年平均102万平方メートルと、ほぼ同水準であること、(b) 既存ビルの建て替えが中心であるため、滅失するビルも多く、実質的な(ネットの)供給量は、表面的な(グロスの)供給量の4割以下であること、などが挙げられる。また、2018年以降の5年間の供給量のうち69%が、オフィス需要が強い都心3区(千代田、中央、港)に立地することも、空室の発生を抑えていると考えられる。

 ところで過去の供給動向を見ると、単年では1994年、2003年、2012年の供給量が多かった。好況期にビル計画が増える傾向があるため、ビル供給量の「9年サイクル」は、景気循環の周期とも一致すると考えられる。この「9年サイクル」説が正しければ、供給量の次のピークは2021年になるはずであるが、「オリンピック前にビルを完成させたい」と考える事業者が多いため、2018~2020年の供給予定が比較的多くなっている。不動産関係者の多くは「オリンピック終了後は不動産需要が減少する」と予想している。しかし、筆者が2016年6月の「新・都市論」で述べた通り、オリンピック後も、不動産市場は好調を維持すると思われる。

オフィス賃料の上限と下限の差が拡大

 上記(1)の景気回復は、2017年度の実質GDP成長率が1.5%(5月16日に公表された速報値)と、4年振りの高水準を記録するなど、様々なデータが示しているが、「実感できない」との指摘も多い。これは、業種や企業によって業績の差が大きいことが一因と思われる。IT・ネット関連の企業が躍進する一方で、かつて日本経済を支えていた鉄鋼、造船、電気などには低迷が続いている例が目立つ。一般の市民にとっても、今ではIT・ネット関連企業の方が身近な存在であるが、景気動向については、過去との比較がしやすい「旧・基幹産業」を基準に判断する傾向が強いようだ。

 最近1年間のオフィス移転事例(予定を含む)を見ると、業績が好調な企業には、現在のオフィスが手狭になったため、まとまった床面積を確保できる新築の大規模ビルに移転する例が多い。たとえば、2017年12月に竣工した「目黒セントラルスクエア」にはアマゾンジャパンが、2018年8月に竣工予定の「渋谷ストリーム」にはグーグルの日本法人が入居する見込みである。サイバーエージェントは、現在10カ所に分散するオフィスを、2019年に完成予定の「Abema Towers(アベマタワーズ)」(渋谷区宇田川町)と「渋谷スクランブルスクエア」に集約する。これらのビルは、いずれも満室、あるいは満室見込みとなった。また、急成長しているものの、まだ業歴が浅く、一般的な知名度もそれほど高くない企業には、人材確保面などの効果を期待して、話題性の高いビルに入居する例も見られる。このようなビルには、賃料が高めの例が多いと思われる。

 一方、老舗や名門と言える企業には、傘下の企業を集約して、グループ力の強化や、経営の効率化を図る例が増えている。この中には、オフィス関連の総コストを抑えながら床面積を拡大した例や、やや築年数が経過しているものの、立地面で優位性の高いビルに移転した例も見られる。業界再編が進む監査法人は、(a)PwCあらた有限責任監査法人が、2017年1月に竣工した「大手町パークビルディング」に移転、(b)あずさ監査法人が、2017年5月に竣工した「S-GATE大手町北」に新オフィスを開設、(c)新日本有限責任監査法人などが属するEY Japanが、2018年1月に完成した「東京ミッドタウン日比谷」に移転、(d)デロイト トーマツ グループが2018年10月に完成予定の「丸の内二重橋ビル」に入居予定、など東京駅周辺に集中する傾向が強まっている。

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