アフターコロナの地方創生

「自分ごと化」で変わるまちづくり 具体的事例から考える持続可能な経済循環

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 コロナ禍を背景にリモートワークが定着。経済や人の流れが首都圏一極集中から地方へと広がりを見せる。その受け皿となる地方都市の再生は急ピッチで進み、産学官民一体となった新たなまちづくりも各地で始まってきた。日本経済新聞社が1月28日に実施した、コロナ後の地域社会を見据え具体的事例から持続可能な経済循環を考えるフォーラム「アフターコロナの地方創生」では、全国各地で進む地域課題解決に向けた取り組み事例が報告された。最前線に立つ識者、専門家による講演、討論は、自身の知見を踏まえた数々の提言で白熱した。

 [講演]まちづくり、全国で支援

 都市再生機構 理事長 中島正弘氏

 都市再生機構(以下UR)は1955年、日本住宅公団として設立されて以来、わが国のまちとくらしの課題に向き合ってきた。現在は①都市再生・まちづくり支援②全国約71万戸のUR賃貸住宅の経営③災害からの復旧・復興──の3本柱で事業を行っている。本日のテーマである地方都市においては、基調講演いただく熊本県荒尾市での土地区画整理事業や長野県佐久地域の豪雨災害からの復旧なども支援。他にも、徳島県美波町での津波防災まちづくりや新潟県糸魚川市での大火からの復興まちづくりを支援し、こうしたご縁をきっかけに地方と団地をつなぐ物産マルシェの催しなども行っている。

 URの持つツール、ネットワーク、資産を活用して全国のまちを支援しているが、各地から相談をいただき、35道府県で89自治体を支援してきた。空間づくりを得意とするURは、自治体やまちづくりのプレーヤーとの協働で地域経済を盛り上げ、持続可能なものとしていきたいので、ぜひお声がけいただきたい。

 [講演]暮らしたいまち日本一へ

 荒尾市長 浅田敏彦氏

 熊本県の西北端に位置する荒尾市は、三池炭鉱のまちとして発展した歴史がある。近年の人口減少下、かつコロナ禍による新しい生活様式においても、市民がより便利で快適な暮らしができ、健康で幸せを実感できるまちにしたいという思いで「暮らしたいまち日本一」を目指している。 

 そのためには、①市内の2つの中心拠点に都市機能を集約するコンパクト+ネットワークのまちづくり②スマートシティーの推進と全世代型のデジタル社会の構築③SDGsの推進とゼロカーボンシティーを目指す――の3つを基本戦略として考えている。

 市内の中心拠点の一つが荒尾駅周辺だ。広大な競馬場跡地を活用した新たな拠点づくりが本市のまちづくりの一大事業となる。

 URの支援を受けて2016年から土地区画整理事業に着手し、「有明海の夕陽が照らすウェルネスタウンあらお」を基本コンセプトとし、道の駅、保健・福祉・子育て支援施設を複合化したウェルネス拠点施設や、心と体の健康に結びつく温浴・宿泊施設なども検討。多種多様な施設が立地しながらも相互に連携するエリアマネジメントで、年間480億円の経済波及効果を試算している。

 もう一つの中心拠点は緑ケ丘地区周辺。市立図書館が老朽化し手狭であることから、商業施設「あらおシティモール」と紀伊国屋書店と連携し、官民連携でシティモールに移転整備する協定を締結。約3300平方㍍の空間に15万冊の蔵書があり、ゆったり滞在できるデジタルライブラリーが今年4月に開館する。最小経費で最大の効果を上げる、地方創生の一つのモデルになると考えている。

 また、本市は国のスマートシティー先行モデル事業に選定されており、ヘルスケアやエネルギー、モビリティー、防災・見守りなどのテーマを設定。官民連携の「あらおスマートシティ推進協議会」を設置し多くの民間や大学の協力を得ながら進めている。

 [講演]「卓越性の創造」に挑む

 佐久市長 栁田清二氏

 地方創生で必要なのは、不足を補う作業よりも卓越性を伸ばしていくこと。佐久市の卓越性には「活断層が確認されず災害リスクが低い」「日照時間が長く太陽光発電の発電効率が高い」「1977年の観測以来、熱帯夜が一度もない」などがある。

 佐久市は医療も充実させてきた。13年前の私の公約は「佐久総合病院再構築の全面支援」だったが、現在は佐久医療センターが第3次救急を、浅間総合病院など6病院が2次救急を担う体制が整い、医療の充実が図られてきた。高速交通網も充実しており、市内には6カ所のインターチェンジがあり生活に密着した高速道路を実現。現在は中部横断自動車道の全線開通が目標だ。高速交通網と災害リスクの低さを打ち出し、企業誘致も積極的に実施している。佐久市が持つ卓越性は「暮らしやすさ」でもある。流入人口は長野県の中でも毎年上位をキープし、他地域からどれほど人を招いているかを示す「吸引力係数ランキング」は約20年間連続県内第1位となっている。

 暮らしやすさをより高めていくために、「吸引力係数を長野県トップへ」「子育て支援のトップランナーへ」「地域公共交通大改革」が大きな課題だ。吸引力係数を上げるべく、URや筑波大学に支援をいただき、佐久平駅南地区の土地区画整理事業に取り組んでいる。道路整備で回遊性と景観の向上を図り、周辺ににぎわいをもたらすまちの軸をつくる。子育て支援では、野沢地区などでの子育て支援に注力し不妊治療・不育治療を年齢制限なしに受けられる「コウノトリ支援事業」を実施する。市内循環バスも廃止してデマンド交通を佐久市内全域に整備。75歳以上や免許返納者、障害者、妊婦らは自宅前まで送迎するなど、市内なら移動の心配がない環境を実現する。このように、卓越性の探求から〝卓越性の創造をもって、われわれは地方創生に挑み続けていく考えだ。

 

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 [討論]まちづくりで目指す地域経済の活性化

<パネリスト>龍谷大学 政策学部 教授 深尾昌峰氏/東近江三方よし基金 常務理事 山口美知子氏/良品計画 執行役員 ソーシャルグッド事業部長 河村 玲氏/地域ブランディング研究所 代表取締役 吉田博詞氏  

 資金の地域循環を構築

 深尾 ESG(環境・社会・企業統治)投資や環境金融といった金融の仕組みを地域に引き付ける方法論はなかなかない。そこで私は2009年から寄付や社会的投資を仲介する組織、「コミュニティ財団」を全国につくり、社会的投資を地域で使いやすくするための金融会社を設立。20年には「ソーシャル企業認証制度」を立ち上げESGのローカル化を進めている。

 山口 「東近江三方よし基金」はコミュニティ財団の一つで、市域を対象に活動している公益財団。市の付加価値の総生産額のうち市外に流れるお金も多く、地域でお金が循環する仕組みづくりで様々な課題解決が図れると考えたのが設立のきっかけだ。資本の保全・再生や、地域の魅力を向上させる取り組みの応援など、様々な活動を支援している。

 河村 無印良品を展開する当社のソーシャルグッド事業部は、公共のデザインと未利用資源の活用をキーワードに様々な事業を展開。駅舎のリノベーションなど公共施設のデザイン、宿泊事業のほか、UR団地のリノベーション、棚田の保全活動、防災事業なども行う。現在は17自治体との連携協定を結ぶ。

 吉田 当社は地域の魅力を発掘して付加価値をつけ、後世に続く「持続的に稼げる仕組みづくり」を担う会社。マーケティングや商品造成、人材育成まで含めて展開し、スタッフも地方移住して、地域に根付いてお手伝いしている。最終的には地域が自走できる状態を目指している。

 ■共感呼ぶ過程から関与

  深尾 地域資源と人の力で経済を動かすには、どんな視点や手法が必要になるのか。

 吉田 今後重要なのは共感を呼べるかどうか。地域の価値観や大切なものを後世に残していくプログラムや、そこへの参加・応援が大事な時代だ。プロセスエコノミーが最近話題だが、創るプロセスから様々な人が関わることで地域への愛着も生まれやすい。

 山口 地域に様々な関わりを持つ人々が魅力を発信することが、まちの持続性につながる。そのためには「やりたい」という強い覚悟を持った人が必要だが、そのような動機が形成されるには、まずは個々ができることから始める「小さな動機」を地域で大事に育てていくことが必要だ。

 河村 当社は「地域社会に巻き込まれる」がキーワード。主体者である地域住民に、我々よそ者が巻き込まれて様々なことを推進する流れを意識している。当社のコミュニティーマネジャーには日々住民から「一緒にやろう」など相談が寄せられ、店舗がコミュニティーセンターとして機能している事例もある。

 ■応援やつながりが鍵に

 深尾 地域でのマネタイズのポイントは何か。

 山口 昨年、コロナで大変な地元の店舗を応援するチケット先買いの仕組みをつくり、寄付集めをしたNPOがあった。サービスや商品に対して対価を払うだけではないお金のやりとりは一見遠回りだが、様々な形でお金が回る方が地域経済は豊かになるのではないかと強く感じた。

 吉田 地域商社やDMC(観光地経営会社)の取り組みが各地で加速している。地域を経営する発想を持った組織が、地域を応援してくれる人たちに「この時期これがありますよ」とアピールするなど、つながりを維持する仕組みをつくることが大事だ。

 河村 事業としては「思いの継続性」が実は最も大変なところだ。当社は一小売業なので、やはり一緒に取り組ませていただく地域の事業者や行政の思いの本気度の高さが一番のポイントだと思う。

 深尾 環境省が提唱している「地域循環共生圏」は、地域で主軸に置きたい発想だ。今まで地域で顧みられなかった資源や文化、テクノロジーなどが新たな可能性を生み、持続可能な社会と経済的な循環が成立しうると思う。

 山口 「東近江市版ソーシャルインパクトボンド」は、設定した成果を達成したら出資者にお金が利子付きで償還される仕組み。例えば子ども食堂の成果目標は「対象者のつながりの増加」だったが、結果的に多くのつながりが生まれた。こうした恩送りの事業を今後もサポートしたい。

 吉田 行政任せではなく、自分たちで地域を経営していく発想が必要だ。ただし顔が見える範囲でエリアを区切らないと、商工会議所の延長でしかなくなる。共通課題を持つ人が「自分ごと化」して未来を考えることが大事だ。

 河村 当社では、各地の店舗はその地域にフォーカスした要素を取り入れている。今後も社会コストの低減を意識するとともに、再生可能エネルギー活用や資源循環についても様々な事業者と連携して事業活動を推進していきたい。

 深尾 従来の経済的なインパクトだけでなく、色々な人の関係性やモチベーション、ローカルプライドといったものが長い年月をかけて社会にインパクトを与えていくかもしれない。URが行うものも含め、今後のまちづくりのバージョンアップが求められている。

 

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 ■日経地方創生フォーラム アフターコロナの地方創生

 主催:日本経済新聞社

 共催:都市再生機構

 後援:内閣府

 

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