アフターコロナの地方創生

変革のうねり 地域を前へ 具体的事例から考える持続可能な経済循環

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 首都圏一極集中から地方分散展開へ──。政府の掲げるデジタル田園都市国家構想の基盤となるスマートシティーや地域デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進など、地域経済の活性化に向けた取り組みが各地で進められている。この時期をとらえ、日本経済新聞社では1月28日、コロナ後の社会を念頭に具体的事例から持続可能な経済循環を考えるフォーラム「アフターコロナの地方創生」を実施。地方創生の最前線に立つ識者、専門家による現状報告や講演、討論を通して、将来にわたり活力ある地域社会実現への道筋を探った。

 [講演]デジタル田園都市国家へ

 デジタル田園都市国家構想担当大臣 若宮健嗣氏

 岸田内閣は「新しい資本主義」実現に向けた成長戦略の重要な柱として、デジタル田園都市国家構想を掲げた。高齢化や過疎化などの課題に直面する地方にこそ、介護や農業、観光などデジタル技術を活用するニーズがある。産官学の連携の下、地方が抱える課題を解決し、すべての人がデジタル化のメリットを享受する心豊かな暮らしを実現する。地域の個性を生かして活性化を図り、地方から国全体へのボトムアップの成長で持続可能な経済社会を目指す。

 昨年12月、令和3年度補正予算と令和4年度の当初予算策定を受けて、構想関連施策についてポイントを取りまとめた。①デジタル基盤の整備②デジタル人材の育成・確保③地方の課題を解決するためのデジタル技術の利活用④誰一人取り残されないための取り組み――だ。地方からデジタル技術の利活用を進めて都市との差を縮め、変革の波を起こしたい。

 [講演]データ活用し課題解決

 内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局 審議官 新井孝雄氏

 コロナを契機に国民の意識や行動に変化が生じ、東京圏の転入超過数は2年連続で大幅に減少。地方移住への関心も高まっている。地方移住の懸念事項には仕事や医療・福祉、子育て・教育などがあり、これらの課題をデジタル技術で解決すべく、デジタル田園都市国家構想を掲げた。今春をめどにデジタル実装や先進地域の取り組みについて議論を進めて具体化していく予定だ。

 デジタル田園都市国家構想の鍵はデータだ。健康や交通、教育など個人のデータが可視化されることで人々のライフスタイルが抜本的に改革され、心豊かな暮らしにつながる。様々な価値が共有され、地域の魅力や個性がますます価値を持つ時代になるだろう。構想の推進に当たり、早期に目に見える成果を上げるべく、自治体や企業、大学の方々は交付金や人材支援制度などを積極的に活用してデジタル実装を進めていただきたい。

 [講演]多彩な実践、脱炭素に商機

 清水建設 LCV事業本部 BSP事業部 事業部長 松本 匠氏

 新型コロナの影響で在宅ワーク実施率は上がっている。当社でも検査などを遠隔立ち会いで行うシステムを開発。内勤者は在宅勤務を増やし出社率低減に取り組んでいる。地方創生では先端技術を活用してインフラを効率化し市民の幸福度を向上させるスマートシティーに注力。「メブクス豊洲」では建物の機能を容易にアップデートできる建物OS「DX-Core」で運営を支援、デジタルサイネージや顔認証など様々なものと連携してサービスを提供している。

 低・脱炭素については2050年カーボンニュートラル達成に向けて顧客の取り組みを支援するため「カーボンニュートラルパートナー」を提唱。例えばエネルギー分析や省エネ提案、太陽光発電利用等、最適なカーボンニュートラルに向けたロードマップを作成している。実例では城西大学や中部大学で太陽光による電力を供給。また産業技術総合研究所ではZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の実現に向けて既存施設を改修し1次エネルギーの消費量削減率53%を達成。設計段階から当社開発のZEB評価検証ツールを用いてシミュレーションした。

 水素利用では産業技術総合研究所と共に水素利活用システム「Hydro Q-BiC」を開発。北陸支店に実装しZEBを達成している。他には長野県で木質バイオマス発電、富山県で小水力発電事業にも参画。洋上風力発電に関しては大型風車の施工が可能なSEP船を建造中で今年10月に完成見込みだ。地域から育む脱炭素社会に「カーボンニュートラルパートナー」として共に歩み、頼れる存在を目指したい。

 [講演]地域金融軸に事業者支援

 内閣府副大臣 黄川田仁志氏

 政府は昨年11月に成長と分配の好循環とコロナ後の新しい社会の開拓をコンセプトとした「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」を決定し、資金繰りなどの課題対応、中小企業等の足腰の強化と事業環境の整備に向けて中小企業等事業再生構築事業などの支援策を講じている。

 金融庁からは金融機関に対して事業者の立場に立った柔軟な資金繰り支援を要請。事業者支援態勢構築プロジェクトも立ち上げ、金融機関、地方公共団体、税理士、信用保証協会など地域関係者が連携し課題や支援を確認して具体的対応につなげることを目指している。昨年開設した金融機関専用の事業者支援ノウハウ共有プラットフォームには179の金融機関と信用保証協会職員423人が参加し、オンライン勉強会やシンポジウムを開催している。

 金融庁が約1万社の中小企業に行ったアンケートで事業継続上の懸念事項を聞いたところ、経営人材不足と答えた企業が約3割に上った。コストをかけてでも人材確保を望む声も多い中、先導的人材マッチング事業を2020年から開始し、経営課題解決に必要な専門人材確保を支援している。21年からは新たに地域企業経営人材マッチング促進事業を開始。地域経済活性化支援機構(REVIC)が中心となって「レビキャリ」という人材リストを作成し、大企業から地域の中堅・中小企業への人流の創出を目指している。関係省庁とも連携して地域経済の要となる地域金融機関の取り組みを後押ししていきたい。

 [講演]高まる地方議会の重要性

 大正大学 社会共生学部教授 江藤俊昭氏

 人口減少など様々な課題が山積する中、地方議会の重要性が高まっていることが本日の論点のポイント1だ。議会には、住民の意向を踏まえ、行政に提言・監視する役割がある。

 ポイント2は、条例や地方財政でも地域経営の決定権限はすべて議会にあること。住民自治の根幹だからだ。地方自治の原理からすれば、住民と歩み、議員間討議を重視し、それを踏まえて首長と政策競争する議会だが、ようやくそうなってきた。ただし、あくまで形式改革だ。

 ポイント3は第2段階に入った地方議会改革で、実質的な住民の福祉向上につなげる改革に取り組み、提言し、政策を監視するようになってきた。ポイント4は、そのために議会からの政策サイクルが開発されている。総合計画や地方財政という地域経営の本丸にかかわる議会だ。ポイント5はネットワークによる議会力。議員間、議会間のネットワークも増えている。例えばローカル・マニフェスト推進連盟では議員の勉強会等の活動をしている。

 大正大学地域構想研究所では、地域や企業、議員、住民、自治体職員と連携し、デジタル空間とリアル空間を組み合わせたワークショップを開催(地域共創コンソーシアム)。データのネットワークだけでなく組織を革新することも目指したい。

 地域経営は総力戦であり、多様な人たちが討議する空間が必要だ。議会力アップは地域力アップにつながっていく。それをさらに進めるネットワークが必要になる。

 [講演]地域発の連携・共創基盤

 木村情報技術 代表取締役 木村隆夫氏

 当社は佐賀県に本社を置き、全国の主要都市に支店を持つIT企業。医療業界のDX化を具現化。6年前から人工知能ビジネスに進出し、医療以外にも取引を拡大している。地方創生支援では「LoBaMaS構想」という地方銀行による地方創生実現のためのプラットフォーム構築に取り組む。地方銀行を通じ取引先企業がプラットフォームに登録することで企業間のマッチングがシステム上可能になるサービスだ。基本的に利用料は無料で登録企業100万社、役員クラスのアカウントは500万人分を目指している。大手銀行とも連携することで、全国圏の企業と地方の企業同士のマッチングも実現する。各県の県産品などをLoBaMaSに置くことでECサイトとしての活用も考えている。定期的にオンライン展示会を開催し、全国を対象に企業マッチングも実施したい。

 LoBaMaSは、ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金の支援により見いだしたシステムを基にしたプラットフォーム。ビジネスモデルとしては、定期的に実施される業種別オンライン展示会、サイト上での広告、コンサル企業斡旋や登録企業へのビジネスシステムの導入支援、LoBaMaS内のオプションシステムの利用などが考えられ、その費用が収入源になる。企業や役員のアカウントを多く蓄積することで、他のアカウントビジネスの可能性も高まる。全国の地銀、大手銀行、自治体などに声をかけて、地方からの日本経済活性化促進を支援したい。

 

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 [討論]デジタル田園都市構想が変える未来

<パネリスト>日経BP総合研究所フェロー 安達 功氏/アクセンチュア・イノベーションセンター福島 センター共同統括 中村彰二朗氏/ハピキラ FACTORY 代表 正能茉優氏/日本郵政取締役 兼 代表執行役社長 増田寛也氏/東京大学大学院情報学環教授 越塚 登氏/石川県加賀市長 宮元 陸氏  

 ■ピンチでこそ挑戦促せ

 デジタル田園都市国家構想から見える地方創生の未来図について、最前線で取り組む視点から討論した。

 安達 新たに打ち出された国家構想にどんな光明を見いだせるか。

 増田 本構想はこれまでの地方創生と同質だが、デジタルをより強調して解決に導くもの。感染症によるピンチを地方創生のチャンスにして、デジタル実装を地方から進めて目指すべき地方創生を追求する。地域をどう豊かにするのか目標設定をした上で取り組むことが重要だ。

 正能 日本生産性本部と日本経済青年協議会の調査では、「楽しい生活をしたい」「経済的に豊かになる」を働く目的とする若者が増えている。デジタル田園都市国家構想は、こうした若者たちの感覚と通じるところがある。若者を巻き込みながら、地域を豊かにしていく方法を一緒に考えていきたい。

 越塚 労働人口が減少する中、社会サービスを先端技術で維持していく必要がある。都市サービスは膨大な先端技術を組み合わせて構築されているため、低コストで高水準のサービスをつくるデジタル基盤である都市OSを整備することが重要だ。

 宮元 将来的に人口が半減する危機に向け産業構造を変えるべく、先進テクノロジー導入と人材育成を進めている。カカオ豆を使う再生可能エネルギーを核とした地域経済循環サービスも構築予定だ。

 中村 経験上、都市部で進んだサービスは地方全体には広がらないが、地方での成功例は都市部でも必要とされる傾向がある。最先端の事業を地方で検証して都市部に導入する逆の流れが必要であり、岸田内閣はそれを打ち出した初めての政権なので本構想には大変期待している。

 ■オプトイン社会の実現を

 安達 地域におけるスマートシティーの取り組み状況は。

 中村 われわれは会津若松で10年間、「データは市民のものであり、市民が納得して地域のために出す」形のオプトイン社会を目指してきた。日本のDXの成功はこれができるかどうかにかかっている。

 宮元 自治体が地域をけん引する上では行政のDXが必須だが、最も重要なのは職員のマインドセットの転換であり、変えようという気持ちだ。リソースが限られる中、そこに集中して差別化を図っていきたい。

 正能 若者が地域で挑戦したいと考える理由は「自分の得意なことを必要としてくれる場」「決めやすい・動きやすいサイズ感」「活動に大義を持たせやすい」という点だ。地域を「やりたいことができるプロトタイプシティー」と捉え、適切な人材のマッチングを進めることが大事だ。

 越塚 地方には日本の課題がすべて集約され、デジタル産業の観点でも地方にこそ課題が顕在化して表れている。地方と都市部とで分けて考えがちだが、日本全体の問題として地方構想を考えることが大事だ。

 増田 国家構想に「デジタル」がついたことで地理的・空間的な概念が劇的に変わった。地域の歴史的・文化的な背景をどう守り将来につなげていくかも議論することで、さらに魅力的に輝く地域になるだろう。

 

 

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 ■日経地方創生フォーラム アフターコロナの地方創生

 主催:日本経済新聞社

 共催:都市再生機構

 後援:内閣府

 協賛:清水建設 旭酒造 東海大学 バルニバービ ウェルネストホーム 

   移住・交流推進機構 木村情報技術 大正大学

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