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やる気を奪う「悪上司」 NGパターンはこれだ 「こうして社員は、やる気を失っていく」著者 松岡保昌氏(上)

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 人的資本は競争力の源泉

 チームの風通しをよくする狙いから、上司と部下が1対1で語り合う「1on1」を導入する職場が増えてきた。相互理解につながる場が増えること自体は望ましい。だが、うまく結果につなげられていないケースも珍しくないと、松岡氏はみる。主な原因は上司・リーダーの不慣れな態度だ。「最近、どう?」「何か、言いたいことある?」といった、ぶっきらぼうで相手任せの問いかけは、本音の発言を引き出しにくい。それどころか、「働きぶりに興味を持ってくれていない」という絶望感を与えてしまう恐れすらある。

 「1on1」は取り調べではない。名前が示す通り、1対1の対話だ。まず上司・リーダーから先に自分の本音を語って、相手の意見を引き出す必要がある。ここでも「語る力」が試される。語らない上司・リーダーには魅力を感じにくいものだ。近ごろは「聞く力」の重要性が注目を浴びるが、「好きにしゃべれ」という聞き置く態度では、「聞く力」は発揮されない。「まずは上司・リーダーから語り始めるべき。その際、語るべき中身を持っているかどうかが問われる」(松岡氏)

 勤め先や職場への共感・愛着を意味する「エンゲージメント」が企業の生命線となり始めたようだ。離職者が相次ぐ職場では、チームが機能せず、結果を出しにくい。エンゲージメントはモチベーションと表裏一体の関係にあり、「やる気管理は管理職の主要業務と位置付けられつつある」(松岡氏)。しかし、新たな役割に戸惑う上司・リーダーは珍しくない。

 エンゲージメントとモチベーションの関係を理解し、チームメンバーのやる気を高めるには「一定の学びやスキル習得が必須」と、松岡氏は発想の転換を促す。管理職に就くまでに相応の年月を重ねていると、「自分の経験を根拠に考える傾向が強まりやすい」(松岡氏)。だが、現実は以前とは様変わりしている。転職は当たり前の選択肢となった。「俺の背中を見ろ」式は通じない。つまり、上司・リーダーが持ち合わせているスキルセットは「過去の遺物」に近い。

 まして昭和世代から教え込まれた人材育成法はハラスメント要因を含んでいることが多い。丁寧に教わることに慣れた世代からは「ハードルが高い」と受け止められがちだ。「自分はこう指導されてきた」という経験踏襲型の発想は「今の若い働き手から共感を得にくい。上司・リーダー側が考え方をアップデートしないと、ずれが広がるばかり」と、松岡氏はいったん自己流の人材育成法から離れて、指導書やセミナーでのリスキリングを呼び掛ける。

 松岡氏の提案で興味深いのは、「モチベーションを高める」という、聞こえのよさそうな取り組みに疑問を投げかけ、むしろ「モチベーションを落とす要因を取り除く」というネガティブ事案への対策に力点を置いているところだ。メンバーの離職を引き起こしたり、チームの勢いをそいだりするマイナス要因を減らすのは、職場の居心地を保つうえで即効性が見込める。「高める」ほうのアプローチも同時並行で進めるべきだろうが、マイナス要因のほうは、上司・リーダー個々の自戒だけで改善できる部分も少なくないはずだ。

 働き手のスキル、やる気などを、企業の「人的資本」とみなして、数字で示す動きが広がりつつある。人的資本を競争力の源泉と位置付ける流れは国際的にも加速していて、政府も情報開示を企業に促す構えだ。リーダー層には人的資本を保ち高める資質がこれまで以上に求められていくだけに、働き手の「心を削る」ような振る舞いを遠ざけるスキルは管理職自らの評価にも直結しそうだ。

松岡保昌(まつおか・やすまさ)
経営コンサルタント、モチベーションジャパン社長。リクルートに入社し、「就職ジャーナル」「works」の編集や組織人事コンサルタントを担当。ファーストリテイリングで執行役員人事総務部長、執行役員マーケティング&コミュニケーション部長。ソフトバンクでブランド戦略室長。福岡ソフトバンクホークス取締役。その後、経営、人事、マーケティングのコンサルティング会社を創業。企業の顧問やアドバイザーを務める。

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