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新人が学ぶ職場の悪い「当たり前」 見直す3つの方法 実践オンボーディング(下) ビジネスリサーチラボ代表 伊達洋駆

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 4月を迎え、職場にはもうすぐ新しいメンバーがやってきて、研修が始まるかと思います。新人は、新しい環境に慣れるために、多くのことを学ぶ必要があります。新人が適応するプロセスのことを「オンボーディング」と呼び、効果的なオンボーディングのあり方に関心が集まっています。オンボーディングがうまく進むのは、基本的には良いことです。そのことに疑問を持つ人は少ないかもしれません。たしかに、新人が会社に適応できれば、早期離職することなく、戦力になってくれます。一方で、思わぬ仕方でオンボーディングがなされてしまう、といったこともあり得ます。本稿では、あまり目を向けられることのない、オンボーディングの「負」の側面に光を当て、その対策もあわせて解説します。

 新人は良くないことも学ぶ

 薬に「主作用」(望ましい効果)があれば「副作用」(思わぬ悪影響)もあるのと同じように、オンボーディングにも主作用と副作用の両方があります。

 オンボーディングの主作用は、新人が会社に適応することで、会社に愛着を持ったり、定着したり、活躍したりすることです。では、副作用は何でしょうか。

 オンボーディングの副作用を考える上で、一つ興味深い学術研究があります(※1) 。紹介しましょう。

 研究によれば、ある会社に新人がやってきたのですが、入社後に新人の飲酒量が増えたそうです。

 調べてみると、その会社の上司や顧客の飲酒量が多く、会社に適応した結果、新人の飲酒量も多くなっていることが分かりました。お酒を飲むことを明示的に強制されているわけではないにもかかわらず、こうした変化が起こったのは興味深いところです。

 飲酒量の増加は、オンボーディングを通じた学びであると言えます。オンボーディングにおいては、新人が必ずしも「良いこと」だけを学ぶのではないのです。

 同様の研究が他にもあります(※2) 。もう一つ紹介します。

 今度は、安全装置を使わない現場に新人がやってきたという事例です。この新人はどうなったと思いますか。

 想像できた人もいるかもしれませんが、新人もまた、危険を伴う作業でも安全装置を使わない傾向にあることが明らかになりました。

 安全装置を使わないのは、新人を危険にさらす行為です。本来は望ましいとは言えません。しかし、新人はオンボーディングの過程で、安全装置を使わないことを学んだのです。

 問題のある慣習や価値観を見直すには

 オンボーディングは、新人が新しい環境に適応するプロセスです。オンボーディングの中で、新人はその環境において「当たり前」の慣習や価値観を学びます。

 ところが、新人の学びがすべて良いものであるとは限りません。先の2本の研究が示すとおり、新人はネガティブなことも学ぶ可能性があります。

 オンボーディングにおいては、良いものも良くないものも含めて、会社から新人にさまざまなものが引き継がれていくのです。

 こうしてオンボーディングは、問題のある慣習や価値観が会社の中で保存される原因の一つになります。非効率、非倫理的、非合理的、不健康な慣習や価値観が、オンボーディングによって継承されていくのは、会社にとっても新人にとってもマイナスです。

 そこで、企業は新人のオンボーディングを進めながら、同時に、自社の慣習や価値観に問題がないかを見直さなければなりません。3つの見直し方があります。

 ①理由を説明しようとする

 まず、新人に仕事を依頼する際に、一つひとつの理由を説明しようとする、といった方法があります。「なぜ、このような進め方をするのか」を新人に教えようと努めるのです。

 そうすると、うまく理由を説明できないことが出てきます。よく分からないが実行され続けていることや、冷静になるとあまり意味がないことが見つかるはずです。

 仕事の理由を説明すれば、新人にとっても、仕事を深く理解することにもつながります。一石二鳥の方法です。

 ②本当に必要かを考えてみる

 次に、「それが本当に必要か」を考えてみる、という方法です。多くの慣習や価値観は、当初はそれが求められた経緯があったかもしれませんが、時間を経る中で、ほとんど吟味されることのないまま維持されています。

 新人に仕事を教えるにあたって、それぞれの仕事について、本当にないとだめなのかを自問してみます。一度、立ち止まって検討すると、案外必要でもない、ということが明らかになります。

 ③新人の違和感に着目する

 最後に、新人の「違和感」を拾い上げるという方法です。新人は、自分の会社の慣習や価値観に染まっていません。

 だからこそ、「なぜ、こんなことをする必要があるのだろう」と違和感を覚えることがあるでしょう。新人の間に覚えた違和感を丁寧に書き留めておきます。

 新人の違和感を先輩や上司がヒアリングし、自分たちの習慣や価値観を内省するのが理想です。たとえ、それが難しい場合も、違和感をメモしておき、新人が二年目になった際などに変更を加えると良いでしょう。

 以上、本稿では普段あまり語られることのない、オンボーディングの副作用について述べてきました。オンボーディングは新人が適応するプロセスであると同時に、問題のある慣習や価値観を点検する機会にもなります。副作用を最小化するように取り組んでいきましょう。

伊達洋駆(だて・ようく) 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了、修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、11年にビジネスリサーチラボを創業。HR領域を中心に調査・コンサルティング事業を展開し、研究知と実践知の両方を活用したサービス「アカデミックリサーチ」を提供。13年から採用学研究所の所長、17年から日本採用力検定協会理事。著書に『人材マネジメント用語図鑑』(共著、ソシム)、『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著、日本能率協会マネジメントセンター)など

  (※1)Liu, S., Wang, M., Bamberger, P., Shi, J., and Bacharach, S. B. (2015). The dark side of socialization: A longitudinal investigation of newcomer alcohol use. Academy of Management Journal, 58(2), 334-355.

  (※2) Choudhry, R. M., and Fang, D. (2008). Why operatives engage in unsafe work behavior: Investigating factors on construction sites. Safety Science, 46, 566-584.

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