どこでもオフィスの時代

成果を出す人はなぜ「場所」にこだわるのか? 山口周

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 「好きな場所で働けるか」で競争力に差がつく時代に

 2020年の秋にコンサルティングファームのマッキンゼー・アンド・カンパニーが「What’s next for remote work: An analysis of 2,000 tasks,800 jobs,and nine countiries(リモートワークの次の展開:2,000の仕事、800の職業、そして9つの国を分析した結果)」と題するレポートを発表しました。そのレポートには、「新型コロナウイルスの流行により、働く人の20%以上が週に3~5日のリモートワークで、オフィスにいるのと同程度効率的に仕事ができるようになり、この状態が続けばコロナ前の3~4倍の人が在宅で仕事をするようになる。結果、都市の経済、交通、消費行動、その他さまざまな点に甚大な変化を及ぼすことになるだろう」と書かれています。

 これは単なる予測に過ぎませんから、当たらない可能性も十分にありますし、僕自身日頃から「予測は当てにならない」と繰り返し主張しているので、これを根拠にするつもりもありません。しかし、リモートワークと出社のハイブリッド型の働き方を、これだけたくさんの人が経験した以上、パンデミック収束後も元の状態に完全に戻ることはまずないでしょう。

 さらにこのレポートは、アメリカの各産業分野において労働時間の何割をリモートで仕事するようになるかも予測しています。

 上位にランクインしているのは、まさに東京の丸の内や大手町のオフィスで働いている人たちの仕事です。仕事をしている時間の6~8割がリモート、つまり平日5日のうち3日以上オフィスに行かなくてもいいという状況になりつつあるわけですが、ここで皆さんによく考えていただきたいことがあります。

 それは、コロナ前に就職先や転職先を探す際、「週に1回しか出社しなくていい会社はないかな?」と考えていた人がいたか、ということです。

 おそらく、その視点で会社選びをしていた人はほとんどいなかったでしょう。誰もが「会社には毎日行くものだ」と信じていたからです。ところがパンデミックによりリモートワークが推奨され、「オフィスに出てくるな」とさえ言われるようになりました。それでも仕事は回り、特に支障がないこともわかってしまいました。つまり、「会社には毎日行くものだ」と信じていたことが、フィクションに過ぎなかったと露呈したのです。

 たくさんの人がフィクションに気づいたことで、現在大移動が起きています。東京の自宅を手放して、軽井沢や湘南など都心に1~2時間でアクセスできる場所に移住する人が増え、その地域の地価がかつてないほど上がっています。みんなが動くタイミングで動いたために高値掴みをしてしまっている人も少なくないと聞きました。

 でも、実は3年前でも一部の人は、「会社には毎日行くものだ」はフィクションだとわかっていました。遠隔地にいても仕事がスムーズにできるテクノロジーがこれだけ発達しているのだから、何もオフィスにいなくても好きな場所で仕事はできるよね、と判断していたファーストムーバー(先行者)はいたのです。今、世の中にどんな技術があるか、そしてどんな人生を生きていきたいかを常に自分の頭で考えるようにしていれば、みんながフィクションだったと気づくはるか前に行動を起こせます。

 私たちが根拠なく信じているフィクションは、きっと他にもあると思います。今は気づいていなくても、5年後に「なんだ、あれはフィクションだったんだね」と判明することがいくつもあるはずです。例えば「本社は1か所にあるもの」というのもそうでしょう。都心の一等地に大きなビルを建ててそれを本社にするのが当たり前とされてきましたが、コストのかからない地方に置いてもいいでしょうし、もはや物理的な拠点を持つ必要さえなく会社はクラウド上にあればいいという時代がいずれやってきます。

 そして、みんなが当たり前の「前提」としてしまっているフィクションに気づけるファーストムーバーでいるためには、「考える強度」が必要なのです。

 場所が「人生のパフォーマンス」を決定づける

 これまでの著書で何度も書いてきましたが、サイエンスで出された正解をアウトプットすれば競争力のある商品やサービスを生み出せる時代は終焉を迎えつつあります。そして、「自分はこれがいいと思う」と信じるものを突き詰めていかないと、多くの人から共感を得られる商品やサービスを生み出せない時代が到来しています。

 日本企業は、ここ数十年の間ずっとイノベーションが起きない起きないと悩み続けていますが、これはライフにおいても、ワークにおいても、主体的に考えて決めることをしてこなかった人が圧倒的に多いからではないかと感じています。

 イノベーションとは、固定された常識のタガを一つずつ外しながら、「what if, then ?(もし~だとしたら?)」と問い続けることです。例えば、「パソコンはどうしてこれ以上、薄くならないの?」「厚さの原因であるCDロムのドライブは本当に必要なの?」「それをなくしてみたらどうなるの?」というふうに当たり前とされていることを一つずつ外していった結果、生まれてきたのが初代のMac Book Airでした。

 公の場では、これを「イノベーション」と呼びますが、私の場に移すと引っ越し、転職、転身など人生におけるあらゆる「転機」となります。自分は今、この場所に住んでこの仕事をしてこの人間関係の中で生きているけれど、「what if, then ?」と問うてみたとき、ライフオプションは無限にあると気づきます。

 実は、誰もが自分の人生の脚本を、パーフェクトフリーダムをもって描けるのです。自分はどこに身を置いて生きていくのが、一番幸せなのだろう。その場所で、どんな人と、どんなことをして過ごすのが一番幸せなのだろう。そんなふうに「what if, then ?」と問い続け、「場所」と「人」と「仕事」の3つをミックスすると、スペクトルが一気に広がります。

 個人レベルで自ら「what if, then ?」と問い、常識のピースを外せない人が、仕事では外せると考える理由がありません。仕事で圧倒的なパフォーマンスを発揮できる人は、個人レベルでも絶えず常識のピースを外し続けているはずです。ワークとライフは、一つの主体が営んでいるわけですから、分離できるはずがありません。

 「what if, then ?」と思い描いてみて、現状よりもしっくりきそうだったら、まずは動いてみる。それはデザイン思考そのものです。構想してみてよさそうなら、手を動かしてプロトタイプを作って試す。うまくいきそうなら、もっと突っ込んでやってみる。ダメだったら微修正する。この一連の動きを、ワークとライフの区別なく人生全体でやっていくということです。

 自由に思い描いて、自由に試してみればいいのです。若い人であれば、今いろいろと登場している住まいのサブスクリプションのようなサービスを利用して1年ごとに違う場所を試してみるのもいいでしょう。そして、30代半ばくらいでしっくりくる場所を見つければOKです。もちろん、「what if, then ?」と間い始めるのに遅すぎるということはありませんから、若い人に限らずあらゆる年齢の人がこの本を読んで、自分の人生にパーフェクトフリーダムを持っていることに気づき、行動を起こしていただけたらと思います。

 「what if, then ?」と考え続け、自分が落ち着く「場所」を見つけた人は、迷いがない分すごいパフォーマンスを発揮しますから、キャリア上も優位に働くと思います。一方で、自分の頭でしっかり考えずに世の中のマジョリティに乗っかって「そういうもんだよね」という選択を繰り返していると、いつまで経っても「これで本当にいいのだろうか?」という落ち着かなさを抱え続けることになり、パフォーマンスも上がりません。

 

 

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