なぜか「惹かれる企業」の7つのポジション

未来に向けて 社会を引っ張る「挑戦者」に 博報堂 戦略CD/PRディレクター 菅 順史

記事保存

日経BizGate会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。

 挑戦に惹きつけるための「問い」

 ここで、社内外の人たちを挑戦の物語に惹き込んでいくための方法をひとつ紹介します。

 映画や小説の物語づくりや、人前で話すパブリック・スピーキングの構成づくりにおいて重要とされている「セントラル・クエスチョン」という概念をご存知でしょうか。これは、受け手に「もっと先を知りたい」「最後まで結果を見届けたい」と思わせる技法です。

 例えば、「果たして主人公は、ダヴィンチが『モナ・リザ』の瞳に隠した秘密を解読できるのか?」「果たして主人公は、AIと真実の愛を育めるのか?」といった問いを設定することで、生活者が作品に対して何を期待すればよいのかを示し、物語にのめり込ませるのです。

 2020年のNHK大河ドラマ『麒麟がくる』の主題ともなった「本能寺の変」は、日本中を惹きつけている物語です。作品を楽しむ人だけでなく、作家や研究者が生涯をかけて探求し続けたくなるのも、「明智光秀は、なぜ織田信長への謀反に踏み切ったのか?」という魅力的なセントラル・クエスチョンがあるためです。

 また、魅力的なセントラル・クエスチョンは、「この問いと向き合い、一緒に答えを出そう」という“参加と協力”を生み出します。そのためセントラル・クエスチョンは、生活者を惹き込む力になるだけでなく、エンジニアや専門家、大学、自治体、アライアンス企業などのステークホルダーを巻き込む力にもなるのです。生活者を惹き込み、社会を巻き込むために、あなたの会社はどんなセントラル・クエスチョンを掲げればいいのか。言葉にしてみてはどうでしょうか。

 「データで、安全をつくれるか?」に挑むイーデザイン損保

 セントラル・クエスチョンを企業活動で設定した事例として、私がご一緒させていただいているネット自動車保険のイーデザイン損保のケースをご紹介します。

 イーデザイン損保は、「事故時の安心だけでなく、事故のない世界そのものを、お客様と共創する。」というミッションを掲げている企業です。実際に、保険加入者にIoTセンサーを無償で提供して運転特性を診断し、結果をドライバーにフィードバックしたり、安全運転をポイント化してコーヒーなどと交換できるサービスを提供したりして、事故のない社会の実現に向けて具体的な取り組みをしています。

 そんなイーデザイン損保の取り組みに社会を巻き込むには何をするべきか。ネット社会における保険のあり方をつくってきた同社の歴史を踏まえて、これから本格的に到来するデータ社会で、新しい保険会社のあり方をつくる挑戦ができないか考えました。

 データを活用することで、事故に遭ったときのための保険ではなく、そもそも事故に遭わないための保険になれないか。そこで、「データで、安全をつくれるか?」という問いを立てて、生活者や自治体、オピニオンリーダー、他の企業と一緒にこの問いに答えを出すための活動体「Safe Drive With」を立ち上げ、立場を超えたステークホルダーたちと事故のない世界を目指す取り組みを開始しています。

 魅力的な問い(=セントラル・クエスチョン)があることで、その企業に何を期待すればいいのかが明確になり、一緒に社会を変える仲間を増やしていくことにもつながるのです。

 一企業の利益を超えて、人類のための挑戦に

 「挑戦者」ポジションのポイントは、一企業の利益のための挑戦ではなく、社会に何らかの価値を生み出す挑戦を設定することです。社会課題を解決したり、人類共通の夢を実現したり。実現したい未来像や、みんなが見届けたくなる未来像を描き、その企業が選ばれる理由につなげるのが「挑戦者」のポジションです。

 また、社会を変える挑戦に、1社だけで取り組む必要はありません。他の企業や自治体なども一緒に挑戦したくなるテーマを設定することが、世の中を動かすことにつながります。

 こうした挑戦のテーマを考えることは、非常にワクワクするプロセスです。「移動は、人類の幸福を増やせるか?」「テクノロジーは、人間の孤独をゼロにできるか?」「テクノロジーで失われた人間性を、テクノロジーで取り戻すことができるのか?」

 企業の挑戦に社会を巻き込み、みんなが見届けたくなる活動をつくれないか。ぜひ考えてみてください。

菅 順史著『なぜか「惹かれる企業」の7つのポジション』(日本経済新聞出版、2021年)、「第2章社会から応援される企業の『7つのポジション』」から抜粋。転載にあたり一部編集しました。
菅 順史(かん・のぶひと)
株式会社博報堂 戦略CD/PRディレクター。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、2010年、株式会社博報堂に入社。現在は生活者エクスペリエンスクリエイティブ局で戦略CD兼PRディレクターとしてコミュニケーション戦略の立案から実施までを統括するほか、新規事業開発などにも携わっている。

閲覧履歴

    クリッピングした記事

    会員登録後、気になる記事をクリッピングできます。