稲盛と永守

「稲盛と永守」2人の経営者はなぜ失敗しないのか? 一橋大学ビジネススクール国際企業戦略専攻客員教授 名和高司

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 失敗ゼロの経営

 盛守経営では、立てた目標(Objective)に対して、成果(Results)を出すことに徹底的にこだわる。目標は努力目標ではなく、あくまで必達目標なのだ。

 他の日本企業の作法と大きく異なる点が2点ある。

 まず第一に、具体的な数字に落とした中期計画は立てない。稲盛は、京セラ創業当初から、1年だけの経営計画を立てるように心がけてきたという。「3年先、5年先となると、誰も正確な予想はできません。しかし、1年先なら、そう大きな狂いもなく読むことができるはずです。そして、その1年だけの計画を、月ごとの、さらには1日ごとの目標にまで細分化して、それを必ず達成できるように努めてきたのです」(『働き方』)

 「高い目標を掲げよ(Objective-driven)」と唱えつつ、実践にあたっては「一歩一歩の積み重ねを大切にする(Results-oriented)」。この一見矛盾しているように見える教えにこそ、稲盛経営の神髄がある。

 「いつも高く掲げた目標ばかり見ていても駄目なのです。あまりにも遠い道のりを歩こうとすると飽きもするし、自分の力のなさを感じてしまって頓挫してしまいます。高く掲げた目標は潜在意識にしまっておいて、1日1日を着実に歩み続けると、とてつもない所まで歩いていけるものなのです」(同前)

 永守も長期ビジョンは示すが、数字を事細かく積み上げることは時間の無駄と考えている。中期計画の数字は通過点の目安にすぎない。こだわるのはあくまで長期的な高い目標と、短期的な堅実な成果である。これを筆者が「遠近複眼経営」と呼んでいることは、先述したとおりである。

 一方、ほとんどの日本企業は、中期計画策定に夢中になる。VUCA時代に、数年先の確実な数字など予測できるわけがないことがわかっているにもかかわらずだ。その無意味さは今回のコロナ危機でさすがに身に染みたのではないかと思っていると、またぞろ、中期経営計画の修正作業に追われている。このような「中計病」を根絶し、盛守流の遠近複眼経営へと舵を大きく切り直すべきだろう。

 ネバーギブアップ

 さて、盛守経営の第2の特徴は、目標に掲げたことは必ず実現することである。日本企業の中期計画は、事業環境の変化などを口実に、未達で終わることが多い。もっとも、その不名誉な結果を回避するために、毎年「ローリング」と称して、環境変化に合わせて下方修正するという「特技」を磨いている企業も少なくない。だとすれば、そもそも中期計画など、無用の長物でしかない。

 一方、その点はアメリカ西海岸発のOKRとも異なる。OKRでは、ストレッチした目標を掲げ、70〜80%程度達成することがベストとされている。盛守経営では、「目標は実行可能な最高値」(『情熱・熱意・執念の経営』)を掲げ、必達することにこだわり続ける。

 先述したとおり、稲盛も永守も、今まで失敗したことはない、と豪語する。たとえば、永守は、「これまでわが社で解決できなかった問題、開発できなかった新商品はありません」と語る。「理由は簡単で、途中で絶対にギブアップしなかったからです」(同前)

 稲盛は「ネバーギブアップ」こそ成功の条件だとする(稲盛和夫『成功への情熱』PHP文庫、2001年)。また「どんな困難に遭遇しても、決してあきらめない」ことを、リーダーの役割10カ条の1つに掲げている(稲盛和夫『人を生かす』日本ビジネス人文庫、2012年)。「燃える闘魂」「不屈の闘志」「覚悟」などといった言葉は、いずれも稲盛経営のキーワードだ。

 「もうダメだ、無理だというのは、通過地点にすぎない。すべての力を尽くして限界まで粘れば、絶対に成功するのだ」(『生き方』)

 中期計画の数字などという意味のないことには、関心を示さない。しかし、高く掲げた目標は、たとえ時期がずれても、必ず達成する。それが盛守経営の流儀である。

 もちろん、その過程でつまずき、思い通りにならないことは、よくある。しかし、そこから学んで、成果につなげていくことが、盛守経営の原則である。永守は語る。

 「大きな失敗を踏み台にすることによって、より大きな成功を手にすることができるというのが、私の基本的なスタンスです」(『情熱・熱意・執念の経営』」)

 日本人がよく口にする「トライ・アンド・エラー」では、失敗ばかり重なる性懲りのない経営となってしまう。シリコンバレーでは「トライ・アンド・ラーン(失敗から成功の法則を学ぶ)」という言葉が好んで使われる。

 「いかなる逆境をも跳ね返し、可能性を信じて、挑戦し続けるかぎり失敗はない」(『心。』)が、稲盛の信条だ。それが戦後日本の奇跡的な成長の原動力ではなかったか。そして、環境変化に翻弄されず、不撓(とう)不屈の精神を取り戻すことこそが、日本再生の道であると説く。

名和高司 著『稲盛と永守』(日本経済新聞出版、2021年)、「第8章 経営の押さえどころ」から抜粋。転載にあたり一部編集しました。
名和高司(なわ・たかし)一橋大学ビジネススクール国際企業戦略専攻客員教授、京都先端科学大学客員教授。東京大学法学部卒業、ハーバード・ビジネススクール修士。三菱商事(東京、ニューヨーク)に約10年間勤務。その後、マッキンゼー・アンド・カンパニーのディレクターとして、約20年間コンサルティングに従事。2010年6 月に一橋大学大学院特任教授に就任。著書に『経営改革大全』(日本経済新聞出版、2020年)『パーパス経営』(東洋経済新報社、2021年)などがある。

 

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