稲盛と永守

「稲盛と永守」2人の経営者はなぜ失敗しないのか? 一橋大学ビジネススクール国際企業戦略専攻客員教授 名和高司

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 京セラの稲盛和夫氏と日本電産の永守重信氏は、ともに京都をホームベースとしてグローバルに活躍する日本を代表する経営者です。両氏の経営哲学は、世界中に信奉者が広がっています。2人には、未来創造に向けて自社にとどまらず幅広く種まきをしてきたことなど、数々の共通点があります。この連載では、書籍『稲盛と永守』(日本経済新聞出版)をもとに、コロナ後の新たな世界を拓(ひら)く経営モデルでも「盛守」経営の本質を解説します。

小集団ごとに採算管理するアメーバ経営を特徴とする稲盛氏、圧倒的な営業力を強みとする永守氏。もちろん違いはありますが、ともに「失敗しない」経営が信条です。「具体的な数字に落とした中期計画は立てない」「目標に掲げたことは必ず実現する」など、目標の設定と成果への徹底的なこだわりでそれを実現しています。

 自利と利他

 稲盛は、「利他の心」あるいは「無私の心」の大切さを説く一方で、「数字は経営の基本」と付け加えることを忘れない。前者がフィロソフィ、後者がアメーバ経営にもとづく採算管理だ。まさに『論語と算盤』である。

 稲盛経営の基本は、きわめてシンプルだ。「売上最大、経費最小」。そのためには、「値決めは経営」であり、それにコストダウンを連動させていかなければならない。そして、時間当たりの採算性を持ち込むことにより、スピードを重視し、生産性を高める。まさに、日本流オペレーショナル・エクセレンスの代表例といえよう。

 稲盛経営の特徴は、それをアメーバという小集団ごとに徹底させる点にある。企業を支えるために独自の管理会計の仕組みをつくり上げ、各アメーバに採算責任を担わせる。

 ただし、それだけではアメーバ単位の部分最適に陥りやすい。そこで、アメーバのリーダーは、フィロソフィにもとづいて行動することが求められる。

 「リーダーは、同じ会社で働く同志として、会社全体の視野に立ち、『人間として何が正しいのか』という一点をベースに判断しなければならない。自らのアメーバを守り、発展させることが前提だが、同時に会社全体のことを優先するという利他の心を持たなければアメーバ経営を成功させることはできない」(『アメーバ経営』)

 まさに「自利利他」の精神である。このアメーバ経営の実践を通じて、稲盛哲学を体得した経営者が育っていくのである。京セラ社長を10年務めた伊藤謙介、第二電電そしてKDDIの社長を9年務めた小野寺正、再生後のJAL初代社長となった大西賢らは、みな稲盛チルドレンである。

 アメーバ経営を、単に自律分散型経営、あるいは独立採算管理という一面でとらえてしまうと、本質を大きく見誤ることになる。あくまでもフィロソフィとセットで導入する必要がある。M&Aを重ねて巨大化していったKDDIにおいても、JALの再生劇においても、この「考え方」と仕組みの一体化こそが、成功のカギであったことを忘れてはならない。

 経営は数字

 永守も「経営は結局は数字がものをいう」と語る。

 「夢・ロマンを語ると同様に、会社の力、可能性を具体的な数字として頭にたたき込んでおくこと、これが経営者の第一条件」(『挑戦への道』)

 永守は「事業の基本は販売」と言い切る。「1に販売、2、3、4がなくて、5に技術開発」が口癖だ。そしてQCDSSS(クオリティ、コスト、デリバリー、サービス、スピード、差別化)の責任を、営業に一本化する。永守経営の強みの源泉は、この圧倒的な営業力にある。

 日本電産にはCSOという役職がある。他の企業には必ずいる“Chief Strategy Offi cer” でもなければ、最近流行の“Chief Sustainability Officer” でもない。「Chief Sales Officer(最高営業責任者)」である。創業時から永守を支えてきた小部博志副会長が担当している。

 一方、技術や生産部門は、スピードとコスト意識を徹底的に刷り込まれる。「技術過信」を戒め、市場に通用するものを生み出すことに専念させる。

 「エンジニアは、自分の設計したものを客先からダメだしされる、競争相手より劣るときは、恥と考えなければならない」(『挑戦への道』)

 技術立国を目指したはずの日本は、「技術で勝って、事業で負ける」を繰り返してきた。永守経営は、そのような日本病とは無縁である。

 一方で永守は、アメーバ経営のような自律分散経営にも与しない。あくまで事業所制を基本としている。いわば工場プロフィットセンター制で、日立製作所や三菱重工業など、日本の伝統的なメーカーが長らく採用してきた管理会計である。

 とはいえ、日本電産では顧客が神様である。営業が示す市場価格に合わせつつ、10%以上の収益を稼ぐ力が求められる。他の日本メーカーとは段違いに、市場と直結して全社が一丸となって利益を生み出していく仕組みが徹底しているのである。

 「アメーバ経営とは別のやり方であっても業績がグーンと伸びていくことを自分たちで証明した」(『致知』2021年4月号)と永守は誇らしげに話す。

 ビジネススクールの管理会計の授業では、BSCやOKRなどといった目標管理の仕組みが教え込まれる。しかし仕組みそのものは、単なるツールでしかない。どんなに小賢しい仕組みを整備しても、目標(Objective)の設定を誤り、結果(Results)にこだわり続ける組織風土がなければ、成功はおぼつかない。

 逆に一見当たり前に見えるツールであっても、経営がそれを徹底的に使いこなせば持続的に成長し続けられることを、盛守モデルは示している。洋の東西を問わず、『経営は「実行」』(ラリー・ボシディ、ラム・チャラン著、日本経済新聞出版、2003年)なのである。

 

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