環境対応、人権対策といった資本市場と産業界を取り巻く課題が増す中、資産運用会社の姿勢、取り組みが注目されている。ESG(環境・社会・企業統治)の観点から投資先の企業や社会に対し、どんな運用姿勢を示し、どう対話を続けるか。目まぐるしい国際情勢の変化も踏まえ、5月12日に開催されたシンポジウムでは、資本市場で存在感を増すESG投資が今後、どう真価を発揮していくべきか、意見が交わされた。
※2022年5月12日のプログラム「日経SDGsフェス 資産運用会社の未来像を考えるプロジェクト シンポジウム『ESG 投資の真価を問う』」から、基調講演、基調対談、対談をダイジェスト版でご紹介します。
基調講演 社外取締役 役割増す
東京都立大学 大学院経営学研究科 教授 松田 千恵子氏
現在はビジネスを巡る環境の変化が大きく、経営における意思決定が非常に大切で、それをチェックするガバナンスの重要性も高まっている。取締役会ではモニタリング機能が重視され、議長は社外取締役が望ましいというのが投資家の考え方だ。細々とした意思決定の権限移譲も重要だ。
経営戦略やサステナビリティー、事業ポートフォリオ、全社的なリスク管理は取締役会で必ず議論すべきだ。指名委員会では、確立した考え方と透明性が高い手続きに基づいて選任や後継者計画が行われているかを監督するのが社外取締役の役割だ。
ガバナンスが機能するかは経営トップ次第だ。執行役員も管轄業務だけではなく、経営全般に関心をもってほしい。ある業界では社外も含めた女性取締役の比率が9.7%だが、執行役員は2.2%にすぎなかった。女性の執行役員がいる会社は業績がよいというデータもあり、ダイバーシティーへの取り組みはもっと進めてほしい。
サステナビリティーは経営戦略に包含される。経営戦略が企業の将来像を正しく示しており、その将来像が社会の将来像とベクトルが合っているかどうかを社外取締役がチェックするという流れが大切だ。
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基調対談 消費者目線 BtoB企業も
聞き手:日経xwoman編集委員 (肩書は登壇時) 羽生 祥子
事業会社は単年度の数字に追われがちだが、それが通用しなくなってきて、ある種の閉塞感を感じて、オープンイノベーションなど外からの情報を取り入れるようになってきている。
複数の会社の社外取締役を務めて、感じるのは、最終顧客のイメージをつかめていない企業が多いということ。BtoBの会社でも最終消費者からの目線を理解しなければならない。ESG経営で将来価値を提供していくには、売っておしまいではなく、顧客の一生に寄り添い、ライフタイムバリューを向上させる必要がある。将来の顧客であるZ世代や18歳以下が何を求めているのかを把握するのも大切だ。
ESG経営の第一歩は多様な視点を持つ人が経営に関わることだと思う。日本の企業では女性の経営者を育てるのが難しい。そこで2つの処方箋を提案したい。一つは社内起業によって女性自らがポストを創出し経営を学ぶこと。もう一つは、他社への期間限定出向や事業責任者としてのプロジェクト参画で、自社ではできない経験やスキルアップを図ることだ。
私自身、女性社内起業家のためのコミュニティーや、女性経営者層育成プログラムを立ち上げており、活用していただければ幸いだ。
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対談 自然リスクを精査
聞き手:日経 ESG 副編集長 半沢 智
陸・海・淡水・大気の真ん中に社会があるというのが自然の定義だ。ビジネス、金融も自然の中にあって、その恩恵がなくては持続できない。
今は、自然から享受するサービスの利用が過剰で、資産を食いつぶしている赤字の状態。それを黒字にしていかなくては、サステナブルな経営として評価されない。
黒字にする中で、新たなビジネスチャンスも生まれる。こうした企業活動の情報が開示されて、金融機関にとってのリスク・機会として出現する。
自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)は、自然に対する赤字を黒字に持っていくための取り組みに関する情報開示の枠組みだ。カーボンと異なり、自然はビジネスが与えた影響がその場で自分たちに返ってくる場合がほとんどなので、ロケーションを発見することが重要。例えば自然が供給する以上に事業者が水を使っている場所を把握するといったことだ。
金融機関は企業のアセットがどこにあり、そこにどんな自然への依存とインパクトがあり、どんなリスクがあるかを精査し、エンゲージメントをする。それにより事業会社も金融機関も自然リスクへの情報レベルが上がっていくはずだ。