健康データのパワーをアンロックする 仕組みづくりが課題
EY Japan ヘルスサイエンス・アンド・ウェルネスリーダー 矢崎弘直氏
デジタルヘルスの普及が、ヘルスケア業界にパラダイムシフトを起こしている。背景にある要因は、医療費の増加や、それに伴う資本効率改善の重要性の高まり、テクノロジーの進歩、消費者の立ち位置の変化だ。消費者は今や、病気を治してもらう受動的な立場ではなく、自己責任において健康や医療に関連するサービスを自分で選び、健康を確保する存在となりつつある。
重視すべきキーワードは、「ヘルスエクスペリエンス」だ。これは、ヘルスケア領域におけるユーザーエクスペリエンス(顧客体験)を指す。具体的には、消費者が自己責任で健康や医療関連のサービスを選択しながら健康を確保・維持する体験のことだ。今後、ヘルスケア領域のプレーヤーが目指すべきは、ヘルスエクスペリエンスの向上だ。
デジタルヘルスの潮流を理解する上で、押さえておくべきトレンドは5つある。1つ目は、患者中心の医療の実現だ。例えばセンサー技術の進展により、医療機関以外の場所でもリアルタイムで高度なバイタルデータの取得が可能となった。今後、医療機関へ出向くことは必然ではなくなり、患者を中心とする医療サービスがますます普及するだろう。
2つ目は、サプライチェーン構築だ。遺伝子治療の発展など、進化する治療技術への対応や、医療現場で活用されるデータの拡大等を考慮すると、情報伝達インフラとしてのヘルスケアサプライチェーン構築は欠かすことができないプロセスだ。
3つ目は、より一層のアウトカム(成果)の提示だ。医療サービスの結果や成果をより分かりやすく示すため、リアルワールドデータ(実臨床以外で得られるデータ、一例としてウエアラブルから得られる血圧データなど)も活用することなどが求められる。
4つ目は、データやテクノロジーの重要性の高まりだ。個人の健康アウトカム向上や、個別化医療の実現にも、データやテクノロジーの積極的な活用が不可欠だ。
5つ目は、サステナビリティ経営だ。ヘルスケア産業は前向きにサステナビリティ経営に取り組んでいるものの、現状では客観的評価に役立つ枠組みなどが不足しているといった課題がある。
総括すると、時代の要望に沿うデジタルヘルスの実現は、健康データをうまく活用できるか否かにかかっているといえる。データがただ存在するだけでは意味がない。あらゆるプレーヤーがデータに接続でき、かつデータが集約され、意味のある知見が加わって共有され、ユーザーに対して適切な健康管理が行われることによって、データのポテンシャルが最大限発揮される。これをEYでは、データのパワーアンロックと呼んでいる。患者中心の個別化医療の実現のためには、データのパワーアンロックのための仕組みづくりが欠かせない。