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「田中角栄」を追い続けて半世紀 現代に必要な構想力 田原総一朗氏に聞く

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 田中ビジョンの原点となった「都市政策大綱」

 ――数多い「角栄本」の定番テーマは「自民党戦国史」的な権力ドラマと官僚らへの巧みな人心掌握術です。しかし、近著の「田中角栄がいま、首相だったら」(前野雅弥〈日本経済新聞社〉との共著、プレジデント社)は元首相の政策力を中心に論じました。

 「佐藤栄作内閣時代に自民党都市政策調査会長としてまとめた『都市政策大綱』(68年)に注目しました。狭い国土を逆手にとって、日本全体をひとつの広域都市圏とする構想でした。東京一極集中が進む流れを変えるために、新幹線や高速道路網、情報通信網を全国に張り巡らせた『一日生活圏、一日経済圏、一日交通圏』の実現が狙いです。工場などを再配置して過疎化が進む日本海側や内陸部にも産業が生まれ、人口過密や公害など高度成長のひずみに悩む太平洋側の問題も解決できるというわけです。新しいイメージの保守政治家でした」

 ――昭和史研究の保坂正康氏は元首相を「自覚せざる社会主義者」と指摘したことがあります。

 「社会主義者とは思えませんが、社会民主主義的な発想がなければ都市政策大綱はできなかったでしょう。都市政策大綱は『都市の主人は工業や機械ではなく、人間そのもの』とうたいました。さらに公共の福祉のために個人の権利を制限することを明確化し、開発する具体的な地名を伏せたことも優れていました」

 ――自民党総裁選に出馬するときに出版した「日本列島改造論」(72年)の基礎となった開発計画ですね。

 「ただ、列島改造論ではこの2点が抜け落ちてしまいます。私権への制限と地域を特定しない配慮が抜けてしまいました。列島改造論では人口25万人規模の地方中核都市を100カ所つくるなど重点開発地域の名前を明らかにしました。秘書の早坂茂三氏らが該当する地方で地価の高騰を招くと反対したものの、元首相は『これは抽象論ではなく臨床医の処方箋。具体性がなければ国民はついて来ない』と押し切りました」

 「列島改造論は90万部を超えるベストセラーになりましたが、一部の地価が2倍以上に上昇するなど全国に土地買い占めや投機ブームが広がりました。翌73年の石油ショックも起きて『狂乱物価』が続き、列島改造計画は棚上げになりました」

 「田中元首相の政策ビジョンは、現在のような少子高齢化や生産工場の海外移転などを想定しておらず、投機性も軽視していました。一方で全国の均衡ある発展を目指すという構想力では、今日でも参考になる点が少なくありません」

 

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